一年間の教育と早期入客を経て「好きなことで稼ぐ」美容師を育てる

AUBE HAIRの本社ビルは南青山にある。新築の香りが残るビルの中には天井が高く、開放感のあるオフィススペースがあり、屋上からは都心のランドスケープを望める。新たに撮影スタジオや研修スペースがつくられる予定もある。

研修スペースでは、外部企業との共同研修や、外部の講師を招いての接遇研修などを予定している。こうした一流企業の教育を取り入れているのがAUBE HAIRの特徴であり、その内容は進化し続けている。基礎的な教育は入社から一年で終了し、全ての施術に入ることができる。

「スタイリストとアシスタントの区分をなくしました。二カ月の研修を終えたら、自分で集客できる子にはどんどん入客してもらっています。できる施術は限られているけれど、一年足らずでベテランの売上を抜く子もいます。今は情報が簡単に手に入りますから、昔のように誰かに習わないと技術を習得できない時代じゃない。早く入客したほうが経験値も積み上がるし、チャンスも増えていくと思うんです」

と代表の坂井は話す。かつて美容業界では二十代前半は終業期間だった。しかし、AUBE HAIRでは二十代前半は稼ぐ時期と言っていい。

「若い子のほうがSNSの使い方が上手いですから。TikTokで月に百万円以上稼ぐ子もいます。そういう個性をどんどん伸ばしていきたい」

バランスのいい美容師を育てることより、個人の魅力を発揮できる環境を目指したい。海外で過ごす時間が増えた坂井は、そう強く感じたという。

「日本人は基礎学力が高いけれど生産性は低い。一方で海外は弱いところは目を瞑って得意なことに全振りしている人が多いし、生産性は高い。なんでもバランスよく教育するよりも、個性を伸ばしたほうが、会社全体が成長するんですよ」

一人ひとりの個性を伸ばしてきたからAUBE HAIRはここまで成長できた

「個性を伸ばす」という方向性が正しいことは、AUBE HAIRの急成長が証明している。このコロナ禍で三百店舗に手が届くところまで拡大した。業務委託中心のサロンとして出発したが、現在は正社員の割合が三十六％まで膨らみ、月給四、五十万円を超える社員もいる。

「働き方は自由。美容師をしながらYoutuberをやる人もいるし、大学に通いながら働いている人もいます。正社員で安定した働き方をするのもいいけれど、業務委託なら自由な時間ができる。この時間の使い方が人生を変えると思う。それに僕はこの会社を踏み台にして独立してほしい。その方が絶対いいし、僕も楽しいんです。ちなみに、独立する人には『お客さまを全員、連れていってくれ』ってお願いしています。そうしないとお客さまも困ってしまいますしね」

正社員よりも、起業できる人のほうが安定して長く稼ぎ続けられる

このコロナ禍でAUBE HAIRには元正社員の美容師が大勢応募してきた。サロンの縮小やリストラなど理由はさまざま。「正社員は安定している」は幻想だった。

「僕はAUBE HAIRを起業家が育つ会社にしたいと思っています。実際に独立を目指して働いている仲間がたくさんいるし、すでに自分の事業を持っている人もいる。そういう人たちに囲まれて働いたら、きっと影響を受けるはず。本当に安定したいなら、自ら仕事を生み出せる人を目指したほうがいい。起業家になるための土台は、僕らが用意します」

AUBE HAIRは、若手の声も積極的に吸い上げる。例えば「同学年だけでサロン運営をしたい」という要望に応え、本当に同学年だけの店舗を展開。抜群のチームワークで快進撃を続けている。

「美容業界はもっと若い人の声を聞いて伸ばす業界になるといいですよね。僕は自分よりすごい人を育てることが鍵だと思っています。だから、若い人たちを信じて、必要な環境を用意してあげるのが、僕の仕事なんです」