髪を切るだけでなく、ストーリーとヒストリーを紡げる人

愛知県と東京に十店舗のヘアサロンと三店舗のエステサロンを展開する〝トータルビューティゆう〟。どの店舗も異なる街の風景に親和性を持たせながら、沿道からはのぞきたくなるファサードが存在感を放ち、ひとたび店内に入ればゆったりとした空間に優雅な時間が流れだす。

今回、インタビューで訪れた滝ノ水店ではオープンエアなロビーの開放感と庭の木々をすり抜けてくる微かな風の中に、秋が滲んでいると気づく。海外の職人が手がける世界でたった一つのインテリア…ここにしかないカルチャーの数々と、ホスピタリティ。髪を切るだけでなく、遠くへ出かけなくてもお客さまは、ささやかなトリップ感をここで楽しむことができるのだろう。そんなことを思いつつ、「これからの美容師の、あり方をどのように見つめているのか」ゆうの代表である安部あゆみの胸の内を聞いてみたい。

〝ゆう〟の設立は一九六四年。あと数年で六十周年を迎える。移り変わりの激しい業界の中で常にトップランナーとして君臨しつづける稀有な存在だ。その二代目として安部はＣＡから転身し家業を受け継ぎ十三年になる。ゆうは今、新たな成長フェーズに入ったと安部はいう。そんなゆうの次世代をつくっていく美容師に求められることとは、何だろうか。

「デジタル変革が進み、世の中が接触のない時代に変化しようが、美容師の仕事はどんな時も人と向き合い、温もりのある手仕事です。お客さまに喜んでもらい、元気になってもらうという本質は変わることはありません。そこに必要なのも変わらず『人間力』です。人を思いやり、気遣う。素直さと愚直に努力し続ける才能を育てる。『人間力』を鍛えるために、ゆうでは社員たち自身がフィロソフィー研修に力を入れ若手社員に脈々と受け継いでいます。人としてどう生きるか『根っこの部分』がしっかり育てば、どんな時代の強風も、外敵にも、倒れることのない木となり、技術や知識の枝葉を絶や
さず増やしていける。さらに歳月を重ねれば人を惹きつけてやまない花を咲かせ、果実は仲間と分け合うことができます」

時代を越え、長年お客さまに愛され続けるゆうは、強度のある美容師と仲間たちでつくられていることがわかる。その一人である池田雅史（二〇〇二年入社）は、ここ滝ノ水店の店長であり、二〇二一年十一月からはマスター制度により、滝ノ水店オーナーとして店とお客さまを引き継ぐ。

マスター制度とは、いつかは自分の店を持ちたいという夢を応援する独立支援制度で、ゆうの新たな試みであり、滝ノ水店が一号店となる。学生の頃はカッコいいとか、待遇とかだけに目がいきがちだったが、それだけでは一生の仕事として美容師を続けることは難しい。ゆうに出合ったことで、今こうして新しい道を切り拓いていける自分があるのだと池田は振り返る。マスター制度では、ゆうのコアマインドを継承しながらも、新しいゆうのカタチをつくり、事業拡大を図るオーナーが増えていってほしいと安部は期待している。

人と環境に優しく、「一生美しい」をクリエーションする

ゆうでは既存のネット広告を一切していない。ネットクーポンや集客媒体で短期的にお客さまを訴求するのではなく、あくまでも美容師一人ひとりの技術と創りだされる世界観でお客さまを持続的に魅了する。また、お客さまの美しさを一生育てるためにヘアスタイルだけでなくケアリストとして栄養学の知識にもとづいた頭皮ケアから美しさを引き出す。真のトータルビューティにこだわっている。

「そのために、ゆうでは人と環境に優しいヘアケアプロダクトの開発だけでなく、サステナブルな未来のために環境負荷をかけない業務プロセスの改善に努め、業界の事業価値向上をめざしています」

最近では、独自の世界観をアウトプットする自社によるWEBメディアの構築にも力を入れ、専属のメディアプランナーを迎え入れている。カメラマンによる撮影勉強会やオウンドメディアとしてのスタイルブック、動画等をどう仕掛けていくか…美容師たちと彼女が中心となりプロジェクトが着々と進んでいる。