正社員として働きながら美容師以外の仕事に挑戦できる

「美容師という職業を選んだからといって、美容師一本で頑張るだけが人生ではないと思っています」そう話すのは、THE KIDの平山社長。同社には、正社員として雇用されながら、さまざまなことにチャレンジできる仕組み「ジョブ＆ライフ クラフティング」がある。美容師×ヘアメイク、美容師×ＥＣサイト運営、さらには自分のサロンを経営しながら、THE KIDに社員として所属している美容師もいる。副業ではなく「家庭第一」の働き方を設計している美容師もいるという。「ジョブ＆ライフ クラフティング」は、THE KIDの美容師想いの文化から生まれた。

「私たちは三つのことを大事にしています。まずは『美容師第一主義』。お客さまにサービスを提供するのは美容師だから、美容師が働きやすい環境をつくっています。二つ目は先ほども紹介した『ジョブ＆ライフ クラフティング』。正社員の安定を提供しながら、美容師の働き方を自由にする取り組みを続けていきます。そして三つ目は『正しいことをして利益を出すこと』。環境への配慮や法令遵守は当然のこと。倫理的にも正しい選択肢を選び続けます」

同社がここまで「美容師ファースト」を貫けるのは、グループの各店舗に集客力があるからこそ。大型商業施設内など立地に優れ、上質なカラーとトリートメントのサブスクリプションサービスを打ち出すなど、魅力ある店舗をつくって集客し、生産性を高めている。業界的には、美容師がSNSで集客することが当たり前になりつつあるが、同社ではSNSの運用は個人に委ねており、運用方法について会社が口を出すことは基本的にはない。育てたいのはインフルエンサーではなく「生涯美容師」だからだ。

「カラーやショートカットなど得意な技術で集客するのはいいけれど、技術に偏りがあると、お客さまがヘアスタイルをチェンジしたいときに、美容師さんもチェンジしないといけなくなる。そんな状態で、お客さまと長いお付き合いができるのでしょうか。私には高校生だったころから三十年近く通ってくださるお客さまがいます、生涯付き合えるお客さまの存在は、かけがえのないものです」

自分よりも給料の高い人間を何人つくれるかがテーマ

平山社長の経営者としてのテーマは「自分よりも給料の高い社員を何人つくることができるか」である。三十代の社員の中にも、社長の給与に肩を並べる人が出てきた。能力を引き出す秘訣は、「権限委譲」。「信じて任せること」だ。実際に店舗の収益の６割の使い道を、店舗の社員に任せている。何にお金を投資して、さらに売上を伸ばしていくのか、社員たちが自分たちで考えて決めているという。社長から信頼され、任せられた社員は一層、店舗のために頑張る。

「自分たちの意思で組織を動かす経験が、人を育てることにつながる。これがすごく大事なことだと考えています」

大事なのは「心理的安全性」萎縮させるリーダーは要らない

「心理的安全性」もTHE KIDの強みである。「心理的安全性」とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のこと。一人ひとりの能力を引き出し、挑戦を促すために欠かせない要素だ。

「僕自身、ここ二年くらい誰かに怒るようなことはしていません。リーダーもチームの心理的安全性を維持できるタイプに絞っています。エースで四番のリーダーは要らない。みんなから信頼されていて、力を引き出せる人こそがリーダーに向いているんです。だからウチには嫌なリーダーは一人もいないはずですよ」

「生涯美容師」を目指し、伸び伸びと成長できる環境がここにある。

（１）正社員として雇用されながら、美容師以外の仕事もできる。
（２）「優秀な人材をつくること」が平山社長のテーマ。
（３）「心理的安全性」を重視した、会社づくりをしている。