「辞める勇気もなかった」20代を越え、自分の心に素直になれた。フリーランス美容師 平山栞さんの30代の選択―天職WOMAN―

現在、SALOWIN渋谷me+店でフリーランス美容師として活躍中の平山栞(ひらやましおり)さん。30歳を機に新卒から10年以上働いたトップサロンを飛び出し、新しい働き方にシフトしました。
デビュー時にちょうどInstagramでの集客が主流になり、試行錯誤を繰り返してきたという平山さん。SNSなど外部からの評価に影響されすぎて、自分自身の価値がわからなくなり、美容師としての存在意義を見失いかけた時期もあったとか。そんなとき、平山さんはどうやって悩みを乗り越え美容師を続けてきたのでしょうか。平山さんの美容師ヒストリーとともにお聞きしました。
辞める自由もなかったあの頃!? ─それでも残ったのは、誇れる土台

今はフリーランスとしてシェアサロンで美容師をしていますが、その前は新卒で入社した都内のサロンに10年ほど在籍していました。
運よく最難関のサロンに入社できたものの、当時はまだまだ厳しい時代だったので、いかに先輩に怒られずに済むかを考えて、かなり効率的に動いていたのを覚えています。それでも、理不尽にきつく当たられることもあり、「辞めたいかも」という考えが頭をよぎることもありました。
でも辞めるのも怖かったですし、大げさかもしれませんが、当時の自分にとっては「続けるか、辞めて人として終わるか」という究極の選択を迫られているような感覚だったんですよね(笑)。美容師のほかにやりたいこともなかったので、それなら続ける方がいいか、と辞めない方を選んできました。

ただ、大変な思いもたくさんしましたが、アシスタントの頃にそういう厳しい時代を過ごした経験は確実に自分の身になっていると感じます。志の高い先輩から言われていた「飯食って寝てヘア」というモットーは、当時は自分を奮い立たせる言葉でしたし、それを身を以て体感したことが自分の礎になりました。
スタイルの方向性に迷った時も、まずは“続ける”ことでしか道は開けなかった

スタイリストデビューは美容師4年目で、同期よりは少しだけ遅かったです。デビューしたのは、美容師の発信ツールがブログからInstagramに移り変わり始めたタイミング。私自身も「どうやって自分のスタイルを発信していくか」で悩んできました。
当初は金髪ボブに特化しようと思い、金髪ボブの先輩を毎朝スタイリングして撮影して毎日Instagramに投稿するということをやっていたのですが、なかなか集客には繋がらず…。
そんなとき、先輩に「アイコンになるような人を作ってみたら?」とアドバイスをもらい、お客さまのペルソナを立ててその子たちが好きそうな理想の女の子像を探すことにしました。私がアイコンにしたのは、女優でモデルのブリジット・バルドー。前髪とサイドが重めで、おくれ毛が特徴的なスタイルを取り入れるようにしたんです。その時は、サロン全体が派手でガーリーなスタイルを打ち出すことを推していて、その流れに乗った形ですね。
私自身も、それに合わせて服装を変え、髪型もガーリーに寄せて、まるで役に入り込むように“自分”を作り込んでいきました。もともとガーリーな雰囲気は好きでしたが、その時期は特に、自分も含めて、世界観をトータルで見せることに夢中になっていたと思います。

ただ、好きなスタイルはガーリーなものに限らないので、正直飽きるタイミングもあるんですよ。それこそInstagramを見ていても、「この人、今は飽きてるな」ってわかってしまうほど(笑)。そんな気分の波があってもコンスタントに発信し続けるためには、変化を入れつつ軸を保つ工夫が必要ですよね。ガーリーなスタイルを目当てに私のところに来てくれたお客さまも、次回来店のときはちょっと違うテイストを加えて提案してみたり、このスタイルが好きな女の子は、次にどんなものを好きになるだろう?と考えてスタイルを作ってみたりと、試行錯誤の毎日。方向性を決めてからもすぐに軌道に乗ったわけではありませんでしたが、結果が出るまで続けようと決めていました。
打ち出すスタイルに迷ったときは、先輩に相談することが多かったですね。「こうしてみれば?」と言われたら、まずは3カ月続けてみる。3カ月続けてみて全くダメだったら次の方向性にシフトして、少しでも可能性を感じたら続けていくようにすると、浮き沈みの波はありながらも、右肩上がりになっていくことを実感しました。

駆け出しのスタイリストのときって、後輩が自分より先に売れっ子になったり、誰かと比べられることが多かったりもして、それを内面化してしまうと自分の価値を見出せなくなって落ち込むことがありましたね。しかも、それは自分でなんとかする以外に道がないのがまた苦しいところ。
そんなときは、自分が得意なことを突き詰めていくことのが一番いいのかなと思います。私の場合は、スタイリングが好きで自信がありましたし、先輩にも褒められることが多かったので、それを積極的に発信していましたね。続けているとちょっとバズることもあって、当時はそれが自己肯定感につながっていました。
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