なぜ彼は、ウィッグを被るのか 430万再生という大バズの背景と、この時代に“値下げ”を選んだ理由。“ふざけてるようで本気”な金丸祐也の、真面目な仕事論。

自身がウィッグを着用した「世界一わかりやすい巻き髪動画」というリール投稿や、物価高騰のなかで踏み切った施術メニューの値下げなど、次々と打ち出す取り組みが話題のフリーランス美容師の金丸祐也(かねまる ゆうや)さん。顔まわりカットやレイヤーカットといった技術面でも、お客さまから厚い信頼を集めています。
コミカルな動画で注目を集める背景には、これまでの経験を通してたどり着いた明確な仕事の軸がありました。今回は、金丸さんが現在のスタイルに至るまでの歩みや、美容師として大切にしている思いについて、じっくりと語っていただきます。
声かけから始めた美容師人生。月売上10万円の状況を打開したのは地道なモデルハント

今年で美容師としては10年目に入りました。出身が宮崎なので、最初は同じ九州の福岡の美容室に就職して、2年ほどアシスタントをしていました。ただ、働き始めてからしばらくして、「やっぱり東京で挑戦したい」という気持ちが強くなりました。当時の自分から見ると、東京の美容師さんたちの技術はとてもレベルが高く感じられて、「どうせ美容師をやるなら、一番厳しい環境で学びたい」と思ったんです。
上京して働き始めたのは、青山や銀座を中心に店舗展開をする有名サロン。人気サロンなので忙しさは覚悟していましたが、実際に働いてみると、やはり簡単な毎日ではなかったですね。これは言い訳になるかもしれませんが、日々のアシスタント業務で忙殺されてなかなか練習する時間が取れず…。早くデビューしたい気持ちはあったものの、デビューまで4年ほどかかってしまいました。

振り返ると、当時の僕は少し尖っていたと思います。「なんでこんなことをやらなきゃいけないんだろう」と疑問に思ったら、そのまま口にしてしまったり、先輩との関係性を大事にする余裕がなかったり。チェックがなかなか進まなかったのは、そういう態度も影響していたのかもしれません。
その後、デビューのタイミングで表参道の別のサロンに移動して、2年ほどスタイリストとして働きました。ただ、デビュー直後は本当にお客さまがつかなくて…。月の売上は10万円ほど。今思い返しても、かなり厳しいスタートだったと思います。
「このままじゃヤバい」という一心で、街に出てハントを始めました。当時、SNS集客はすでに浸透していましたが、SNSだと発信してからお客さまが実際に来てくれるようになるまでかなりタイムラグがあるんですよね。直近のお客さまを確保する意味でも、ハントは効率がよかったんです。

サロンの営業が終わる20時頃から終電まで、休みの日にも朝から晩まで毎日声をかける生活を送りました。1日で50人ほどに声をかけていましたね。
もちろん無視されることもありますし、話を聞いてくれる人は一握り。もともと人と話すのは得意な方ではなかったので、苦労しました。ただ、その頃から技術には自信があって、「自分が施術したら、きっとこの人は喜んでくれる」という思いだけはずっと持っていたんです。それをモチベーションにハントを続けていました。
半年ほど続けるうちに、少しずつお客さまが増えていきました。売上も100万円くらいまで伸びて、気づけば毎日忙しくさせていただくようになりました。当時のお客さまの多くは、今も通い続けてくださっています。
フォロワーも売上もない、ゼロの状態の僕を信じて来てくださっていた方は、人間的にも本当に素敵な方ばかりなんです。自分のいちばん泥臭い時期を見てくれている存在で、自然と長いお付き合いになっていますね。
売上至上主義だった自分が「人を喜ばせたい」という原点に立ち返った言葉

表参道のサロンで過ごした通算6年間は、東京で認められたいという野心が強すぎるあまり、正直かなり自分本位な人間だったんです。他のスタッフとの関係をよくすることや、お客さまに尽くす喜びよりも、ただただ、自分の売上を追求することだけを考えていました。
前社を退職しフリーランスを選んだ時には、前社の代表から「一緒に働いている感じがしなかったよ」と言われてしまって…。本当にショックだったんですよね。
でもその言葉で、この仕事を目指した原点に立ち返ることが出来ました。僕が美容師になりたいと思ったのは、「人を喜ばせたい、仲間と一緒に成長していきたい」という気持ちがあったから。それなのに、初心をすっかり忘れてしまっていたな、と。
フリーランス転向後は、なくしていたものを取り戻すように、コミュニケーションや心理学、営業力に関する本を読み漁り、人の心を大事にする方法を探りました。

その時期をきっかけに考え方が大きく変わり、「誰かのために生きたい」という気持ちも芽生えました。現在はフリーランスとしてSALOWINに所属していますが、このサロンの中で困っているスタッフがいたら力になりたいと思いますし、改めて、お客さまにも心から喜んでもらいたいと考えるようになりました。
施術料金の値下げも、その考えに基づいて決めたことです。働く中で「この価格で、お客さまは心から喜んでくれているのだろうか」と自問するようになりました。物価が上がり続ける今だからこそ、「同じクオリティを提供できるなら、高いより安いほうが喜んでもらえるに決まってるよな」と、料金を下げる決断をしたんです。
正直、収入は一時的に下がりました。毎月15万円ほど減って、「大丈夫かな」と不安になることもありましたね。

ただしばらくすると、新規のお客さまが増えたり、顧客の方の来店頻度が上がったり、今までの料金ではできなかったメニューを追加してくれたりするように。結果的には、顧客単価も売上も、値下げ前より上回ったんですよ。
お客さまに喜んでもらうことを優先したら、自分の結果にも結びついた。これが、働くことの本質なのかな、と感じましたね。
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