門外不出だった技術を、いま外へ。LIPPSが「ONLINE SALON LIPPS」に込めた意志

メンズ美容のトップランナーを走るLIPPS(リップス)が、2026年2月に、サブスク型eラーニングサービス『ONLINE SALON LIPPS(オンラインサロンリップス)』をローンチしました。対象は、全美容師・美容学生です。これまでほぼ外に出してこなかったLIPPSの技術を余すことなく提供していくとのこと。
その立役者となったのが、創業期からプレイヤーとして、そして教育担当としてLIPPSを支えてきた矢崎由二(やざきゆうじ)さん。多くの顧客から支持を集めた人気デザイナー(スタイリスト)でありながら、2年前にハサミを置き、新たな道へと舵を切りました。
プレイヤーとして第一線を走り続けてきた矢崎さんが、次に専念するのは、“教育”というフィールド。その集大成ともいえるのが、『ONLINE SALON LIPPS』です。
なぜ今、LIPPSは技術を解放するのか。矢崎さんのこれまでのキャリアをひもときながら、その狙いと展望に迫ります。
需要の高まりを受けて、メンズ特化にシフト
−まずは、矢崎さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

美容師として4社ほど経験した後、26歳の頃にヘアサロン「LIPPS(現在は「LIPPS hair」)」に中途入社しました。創業から2年半ほど、まだ原宿に1店舗だけというタイミングです。きっかけは、たまたま一般誌で見かけたこと(笑)。当時のLIPPSは、メンズ・レディース問わず、いわゆる赤文字系から青文字系まで、幅広いジャンルを打ち出していて、僕自身もオールジャンルでお客さまを担当していました。
−そこから、サロンも矢崎さんご自身もメンズ特化へとシフトしていったのですね。

そうですね。当時は、メンズヘア雑誌が出始めたばかりの頃で、LIPPSもそこにスタイルを掲載していました。雑誌の人気が高まるにつれて、若い男性がヘアサロンに通う文化が、少しずつ広がり始めたタイミングでもあったんです。
誌面をきっかけに男性のお客さまが増え、サロンとしてもスタッフとしても、メンズからの支持が高まっていきました。その流れの中で、男性の求める美意識の高さを実感し、その未来の可能性を見据えたとき、ビジネスとしてメンズに向き合う選択をしていったのはLIPPSにとっての必然でした。
今ではLIPPS hairでメンズ顧客が中心というのは当たり前ですが、当時は女性のお客さまが多い状態から、男女比が半々になり、やがて逆転していく。その変化はとても印象的でした。
−入社当初から教育にも携わってきたそうですが、もともと教えることに興味が?

教育そのものに強い関心があったというよりは、技術やデザインを深く掘り下げて考えるタイプだったと思います。その点を、代表の的場(現 株式会社リップス/代表取締役・的場タカミツさん)が理解してくれていて、最初に任されたのがマニュアル作成でした。今から20年以上前のことです。
当時のLIPPSは、僕も含めて中途入社のスタッフが多く、技術の統一が十分にできていなかったんです。今後ブランドとして成長していく上でも、クオリティを揃えるためのマニュアル整備は急務でした。ちなみにマニュアルは一度作って終わりではなく、時代やトレンドに合わせて、今でもアップデートを続けています。
また、メンズカット技法だけでなく、当時存在しなかったメンズ専用のスタイリング技法や専用シザー、メンズヘアスタイルに特化したスタイリング剤といった道具まで生み出したのがLIPPSなんです。
その後、約10年前に、他社に先駆けた独自の教育プログラム「LIPPS HAIR ACADEMY(リップスヘアーアカデミー)」を設立し、依頼、徐々に教育や育成の領域に関わる比重が大きくなっていきました。
後進育成のために、ハサミを置く決断
−教育に比重を移していく中で、アカデミーを立ち上げようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

今もそうかもしれませんが、当時の美容業界には、労務や育成に関する課題が多くありました。サロンワークと並行して、朝や夜に練習を重ねるのが当たり前で、デビューまでに4〜5年かかることも珍しくない。そうした環境の中でも技術やスタイルのクオリティ統一のためには計画的、効率的に育成を進める仕組みが不可避の課題だったのです。
同時に、ブランドのクオリティをどう担保していくか、という課題もありました。育成が計画的に進めば、技術クオリティの統一化だけでなく、生産性の向上にもつながる。自分がそこに関わることで、現場にも個人としても、より良い循環が生まれるのではないかと考えました。それが、アカデミー設立のきっかけです。
アカデミーでは、アシスタントに1年間の集中トレーニング期間を設け、技術習得に専念できる環境を整えています。そうした取り組みに携わる一方で、現役のデザイナーとしてサロンワークも続けていましたが、スタッフ数の増加とともに、すべてを100%でやり切ることの難しさも感じるようになっていきました。
そのため、お客さまを少しずつ後輩へ引き継ぎながら、教育へと軸足を移していき、2年前にハサミを完全に置く決断をしました。
−葛藤はありませんでしたか?

もし完全に現場を離れる形だったら、かなり葛藤はあったと思います。ただ、お客さまを担当しなくなったとしても、これまで培ってきた技術やデザインを活かせる立場であることに変わりはないので、会社に貢献したいという思いのほうが強かったですね。
美容師になった当初は、正直まったく想像していなかった未来でした。ただ、入社してプレイヤーとしてある程度結果を出し、教育やマニュアルづくりに関わる中で、「組織の中で自分の力をどう活かしていくか」を考えるようになっていって。そうした積み重ねの中で、この流れは自然な選択だったのかなと思います。
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