TOH・石原慎太郎さんの“びよう道” 賢さより情熱を──のたうち回るほど没頭した時間が、未来を拓く
素直に人を認められるようになり、一皮むけた

自分のことを一人前になったと思ったことはないですが、僕の場合は、「人を素直に認められるようになったとき」に大きく成長したなと思います。たとえば、スタイルの好みがまったく違う美容師さんが売れていたとしたら、昔の僕なら「自分の方がカッコいいデザインを作れるのに…」と変に対抗心を燃やしていたかもしれない。でも、あるとき「あれはあれで本当にすごいよな」と心から思えた。「いいものはいい」とシンプルに認められる自分になったときに、初めて「なんか一皮むけたな」と思いましたし、不思議と売上も伸びるんです。変なトゲが取れて、お客さまにも柔らかく接することができるようになるんでしょうね。

何より、人を認められるようになるのってすごく大事です。自分の得意分野だけでなく、いろんな人の強みを吸収しようとしていると、それだけ技術の引き出しも増えるし、お客さまにとっても「この人なら安心だな」と思える美容師になれる。僕自身もまだまだ勉強中ですが、「素直に学ぶ姿勢を忘れずに、目の前のお客さまを一番に考える」。それが美容師としての原点であり、一番の近道だと思いますね。
若い頃より貪欲に、技術も知識も吸収し続けたい

振り返ると僕は、先輩から「もっと貪欲になれ」「がむしゃらになれ」といつも言われていました。そんなにけしかけられたら最初はしんどいし、「こんなにがむしゃらにやる必要ある?」って思うかもしれない。でも、ぶっ倒れるまでやったからこそ見えてくる効率化とか、本当の意味でのタイパ(タイムパフォーマンス)”ってあると思うんです。逆に最初から「タイバを意識して、なるべく楽をしよう」と考えると、せっかくの修行期間に必要な経験を省いてしまうんじゃないかな。遠回りが近道になることもあるし、ある程度の「無理」や「全力」をやりきってこそ、本当の効率化が見えてくるものだと思いますよ。
「ぶっ倒れるまでやってみたら?」って言うと、今の時代ではパワハラ中のバワハラでしかないから言わないですけど(笑)。でも、若いうちの苦労は決して無駄じゃないんですよ。だって美容のプロになるんだから。

いまの環境であれば、僕らの時代よりも情報を集めやすいし、いろいろ学べるツールも揃っている。だからこそ、貪欲に突っ込んで、技術も知識も、人間関係も吸収していけばいいと思います。
そのうえで、自分が本当に好きな技術やスタイルを大切にすればいい。僕自身、そうやってきたからこそ、今も新しいことを知るたびにワクワクできるんです。結局、美容師は「いかに貪欲に学び続けられるか」が勝負なんじゃないかな。僕はそう信じて、これからも走り続けようと思っています。

- プロフィール
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TOH 代表
石原慎太郎
1977年生まれ。福岡県出身。福岡美容専門学校卒業。HEARTS/Doubleに入社し22年間在籍。アートディレクターや店長などの要職を務める。業界誌、一般紙などのメディア露出も多数。2021年独立し、表参道にTOHをオープン。KAMI CHARISMA AWARD 2022~2025 2つ星受賞。
(文/外山武史 撮影/菊池麻美)