「家庭もキャリアも夢も、全部あきらめない」Michio Nozawa HAIR SALON代表・那須久美子が描く、“女性の感性が息づく新時代のサロンへ”
「働き方は十人十色」──ママ美容師、そしてリーダーとしての挑戦
――2児の母でありながら第一線で活躍されています。出産や子育てと美容師という仕事の両立は、簡単なことではないと思います。出産後の復帰はどのような状況だったのでしょうか?
正直、かなりハードでした。「お客さまが私を待っている」「キャリアを止めたくない」という思いが強くて、産後すぐに復帰しました。寝不足のままサロンに立つ日もありましたが、それでも不思議と苦ではなかったんです。
ただ、それは“私自身がそうしたかったから”選んだだけのこと。だから、同じようにする必要はまったくありません(笑)。今は働き方の選択肢が本当に多様になっていますし。これからのスタッフには「自分は何を大切にしたいのか」「どう生きたいのか」をじっくり見つめて、自分にとっていちばん幸せな形を見つけてほしいと思っています。

――ご主人も美容師ということで、ご家庭でもお互いを支え合っているそうですね。どのように役割分担されているのですか?
完全に“チーム”で動いています。私は基本的にフル出勤で夜8時までサロンワークをしているので、お互いの仕事次第で分担していますね。夫の帰宅が早い日はサロンに残ってレッスンを見たりもします。
夫は家事・育児も積極的に担ってくれていて、今朝も私が下の子の支度をしている間に、上の子の朝ごはんと準備を全部済ませてくれました。私がお願いしなくても率先して動いてくれるので、本当にありがたいですね。さらに、義両親も子どもの送迎などを手伝ってくれていて、周囲の協力なしでは今の働き方は成り立たなかったと思います。
また、ママ美容師仲間と毎月“家族会”を開いて、仕事や育児の情報交換をしています。同じ立場だからこそ話せる悩みや、ちょっとした励ましが心の支えになります。お互いの子どもを連れて集まって、「うちも同じだよ!」なんて笑い合う時間が、私にとっては何よりのリフレッシュなんです。

――そんな中で、代表就任という大きな転機が訪れたわけですね。そのお話を聞いたとき、率直にどう感じられましたか?
最初は「無理です!」って即答しました(笑)。当時、上の子がまだ3歳で、家庭と仕事の両立だけでも精一杯の時期でしたから。でも時間が経つにつれ、「お客さまから愛される喜びを、スタッフ全員にも感じてほしい」という思いが芽生えてきて、挑戦を決意しました。
美容師の仕事って、日常のすべてが仕事に繋がっているんです。街を歩いていても、電車に乗っていても、人の髪やファッションのバランスを見て学ぶことができる。だからこそ、仕事とプライベートを無理に切り離すのではなく、“人生そのものを美容師として生きる”という感覚を大切にしています。
そしてその姿勢を、これからの世代を担うスタッフにも伝えていきたいと思っています。仕事を通して人として成長していける――そんなサロン文化を築いていくことが、私の使命だと感じています。

“努力”だけがすべてじゃない。各々の価値観に合うステージを

――代表という立場になってから、視点や考え方に変化はありましたか? サロン全体を見渡すようになり、これまでとは違う景色が見えてきたのではないでしょうか。
いちばん大きな変化は、“それぞれの正解を認められるようになった”ことだと思います。以前の私は「努力すれば、誰でも結果を出せる」「売れる美容師になれる」と信じていました。でも実際に多くのスタッフと向き合う中で、それぞれが描く“幸せ”や“理想のキャリア”はまったく違うと気づいたんです。
「とにかく売れたい」「お客さまとの時間を第一にしたい」「プライベートを大切にしたい」「クリエイティブを極めたい」――どんな方向を選んでも、全部正解。そこに優劣はないと思うようになりました。だから今は、個々の価値観に合ったステージをどう作るかを常に考えています。リーダーの役割は“型にはめること”ではなく、“可能性を広げること”なんですよね。これからは、多様な生き方・働き方で輝けるスタッフの前例をどんどん生み出していきたいです。

ーーそんな多様なキャリアの時代を生きる美容師たちに、最後にメッセージをお願いします。
美容師として長く輝き続けるために欠かせないのは、体力よりも“気力”です。技術を磨くことも大切ですが、心が折れてしまっては続けられません。とはいえ、“頑張る”ことは“自分を犠牲にすること”ではないと思っています。心と体の声をちゃんと聞きながら、自分がどう生きたいかを問い続けてほしい。
それに美容師の仕事は、“人”が出る仕事です。生き方も考え方も、すべてがその人の技術や接客に表れる。だからこそ、自分自身を大切にしながら、自分らしいペースで成長していってほしいです。結果は後から必ずついてきますから。


- プロフィール
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那須 久美子(なすくみこ)さん/『Michio Nozawa HAIR SALON』代表
大阪府出身。グラムール美容専門学校卒業後、新卒で都内有名店に入社。長きに渡って野沢道生氏の右腕を務め、クリエイティブディレクターなどの要職を経て、2022年7月、『Michio Nozawa HAIR SALON』代表に就任。サロンワークを中心にメディアでも活躍し、商品開発にも携わる。2児の母。
https://www.mnhs-ginza.com
Instagram:@nasu_kumiko
(文/織田みゆき 撮影/宮崎洋)