「個が育ち、つながりが生まれる場所」ヘアスタイリストTAKAI×メイクアップアーティストKanakoのundercurrentが描く、新しいサロンの形

左kanakoさん・右TAKAIさん
渋谷と代官山の間に佇むサロン・undercurrent(アンダーカレント)。一流アーティストから支持を集めるヘアスタイリスト・TAKAIさんと、パリと東京に拠点を置きメイクアップアーティストとして活躍するKanakoさんの二人がオーナーとして、2023年にオープンしました。グローバルに活躍中の二人が、なぜあえてサロンを東京にオープンしたのでしょうか。また、美容業界に何を見据えているのでしょうか? お二人にこれまでのヒストリーや出会い、undercurrentのコンセプトについて伺いました。あまりメディアに登場しない、貴重なお二人でのインタビュー、必読です!
直感のTAKAIさんと逆算のKanakoさん、対照的なキャリアの重なり

―Kanakoさんはメイクアップアーティスト、TAKAIさんはヘアスタイリストとして活躍されていますがこれまでどのようにキャリアを積まれてきたのでしょうか?
Kanako:私は高校生のとき1年間ほどアメリカに滞在していて、その頃から“ファッションに関わりたい”という気持ちが強かったんです。とはいえ、デザイナーになるイメージは自分にはなくて、「どう関わるか」を考えたとき、自然とメイクに辿り着きました。大阪の専門学校で勉強して、30代でどうなっていたいか、キャリアの逆算をしながら自分が積むべき経験をずっと考えていたと思います。

卒業後は一度母校で働いたあと、21歳でロンドンへ。当時はまだ海外で経験を経て日本で活躍している人は少なかったので、じゃあ、海外に行って必要な経験を積んで、それを自分の強みにしていこうと考えたんですよね。そうして25歳までロンドンとパリで4年間を過ごし、その間にヘアメイクの加茂さん(故 加茂克也氏)と出会いました。加茂さんの専属アシスタントだったかというとそうではなくて、一緒のチームで作り上げていくような関係性でしたね。私自身の仕事をしながら、加茂さんの現場に必要だったら参加させてもらって、その頃から流動的に働いていました。彼との出会いが、今の価値観にもつながる大きな経験になったと思います。

その後、25歳で東京へ。約6年働いたあと、31歳で再びロンドンに戻りました。そこで当時CHANELのglobal creative makeup and colour designerだったLucia Picaのファーストアシスタントを務めることになったんです。それまで私は一度も「誰かのアシスタント」として働いた経験がなかったんですよ。なぜなら、絶対に自分に合っていないと思ったからです。それに、一人の人にコミットしながら働くってものすごく負担が大きいと感じていました。
でも、自分にアシスタント経験がないことが仇となって、専属アシスタントだった人が1年で辞めるという苦い過去があるんです。だからこそ、ルチアのアシスタントのオファーがあった時に今まで避けて来ていた、自分自身がアシスタントとして経験を積むタイミングなのかもと思い、彼女現場に飛び込んでみました。
そこから独立したのが2020年末で、2021年からは日本とパリを行き来しながら活動しているのが、今の私です。

TAKAI:私はKanakoとは真逆で(笑)、直感的に歩んできた感じですね。中学生くらいの頃から友達の髪を切るのが好きだったのですが、あるとき、クラスメイトの男子の髪を自信満々で切ったときに盛大に失敗しまして…。自分ではなんでもできると思っていたので、それが衝撃、かつ悔しくて。高校3年生のときに美容学校の通信コースに通い始めました。
就職もかなり直感的でした。ヘアカタログに載っているサロンに上から順番に電話をかけて決めたんですよ。そうして就職した美容室で4年ほど働いていたのですが、スタイリストになって、「このまま売上のためだけに働くことは、私にとって面白いのかな」という疑問が湧いてきました。それから興味の赴くままに色々なバイトをしました。でも結局「自分が頼りにしてもらえるのは、美容師の仕事しかない」と思い直し、24歳で美容師に戻りました。

その後、「StudioV」で働いていた時期に、ディレクターを勤めていた須賀勇介さんのことを知りました。当時、須賀さんはもうお亡くなりになっていたのですが、須賀さんといえば、黒柳徹子さんのヘアをヘアピンだけで作り上げるなど、まさに伝説的なヘアデザイナー。そんなStudioVで技術を学んだことで、クリエイティブの世界を意識し始めました。その前に働いていた美容室は、パリにルーツを持つサロンだったので、パリやニューヨークなどのヘアの感覚というのは、私にとってもともと身近なものだったんです。
―女性であるTAKAIさんが、メンズヘアメイクの道を選んだのは、どんな理由があったのでしょうか?
TAKAI:男性が好むとされるものが昔から好きだったんですよね。子どもの頃から人形遊びよりは少年漫画が好きでしたし、スカートを履くのもなんだか恥ずかしかったんです。男友達も多かったですし、それが今までずっと続いてきているのかもしれません。

Kanako:TAKAIさん自身が男性的であるかというと、そうではないので面白いですよね。でも、メンズのカルチャーや考え方にフィットする部分が大きいんだなと思います。日本の面白いところってストリートカルチャーが細分化されていて、そのどれにも深みがありますよね。そういうところを通ってきたからなのかも?
TAKAI:それもありますね。あとは、師事していたヘアスタイリスト・KANADAがメンズカルチャーを得意とする人間だったからというのも大きいです。とはいえ、私は女性なので男性の気持ちが100%わかるわけではありません。なので、実際にモヒカンにしてみて櫛の入れってどうやるんだろう? 前髪の立ち上げ方は? とか試してみたこともあります。メンズになれるわけではないけれど、男性のどこか一本筋の通った感覚や好きなものが変わらないところに共感しているのかもしれませんね。
>“寂しさ”と“自由”のあいだで生まれたサロンが「undercurrent」