「個が育ち、つながりが生まれる場所」ヘアスタイリストTAKAI×メイクアップアーティストKanakoのundercurrentが描く、新しいサロンの形
“寂しさ”と“自由”のあいだで生まれたサロンが「undercurrent」

―お二人は、どのようにして出会ったんですか?
Kanako:2014年に、私が東京で個展を開いたときに、TAKAIさんがたまたま来てくれたんですよ。しかも、私や私の作品を狙って来たわけでもなくて、週刊誌の編集の方に誘われてフラッと来たと聞いて、それが面白かったんですよね。
TAKAI:それもかなりアングラな場所でやっていた展示でね(笑)。
Kanako:その出会いをきっかけに、お互い撮影があったら声をかけあったり相談をしたり……という交流が始まりました。基本的に、私のやっているレディースのメイクとTAKAIさんのメンズのヘアメイクは接点があまりない一方で、興味の矛先は似ていたというのもあるんでしょうね。パリで一緒にAirbnbを借りたこともありました。
TAKAI:パリでもロンドンでも仕事しましたもんね。

―そんなお二人がなぜ、一緒にサロンを出すことになったのでしょうか?
TAKAI:私が日本にいるときはアトリエの一角にサロンスペースを設けて、そこでカットしていたんですよ。手狭ですし、扉一枚向こう側はプライベートなスペースだったのを遊びに来たKanakoが見て、「一緒にサロンやらない?」と。
Kanako:私自身も日本に拠点となる場所が欲しかったですし、TAKAIさんを見ていて、ちゃんとお客さまとしてお招きし、営業できる場所があったらいいんじゃないかと。有名人の顧客も増えてきていた頃でしたし、もっと可能性が広がる場所でできたらいいのに、と思って。
20代の頃、誰かにコミットする生き方が合わないと思っていたと話しました。人を育てると言うことは育てる側の経験に偏ったり、主観が強いこと。なので一方的に育てると言う感覚がしっくりこないんです。考えてみれば、一人にコミットする仕事の仕方って、あくまで個人の采配であり感情で決まる関係性ですよね。だからこそ、不安定でもある。一人につくマンツーの関係性って、良さもあるけど負担も大きい。私とTAKAIさんで、もっと共同体的に、お互いに責任を分担できる場を作ろうと考えたんです。undercurrentではみんなで影響しあって成長出来る、特定の一人に依存しない働き方や成長を実現したいな、と。

TAKAI:今、多くの美容師さんがフリーランスになっていますよね。憧れて入った有名サロンで、最初はよかったけれど、キャリアを重ねるにつれてサロンのコンセプトと自分がやりたいことのミスマッチが起きて離れていく人も多い。ところが、フリーランスで一人になると、自由でいいけれども、“寂しさ”も発生するんですよね。私も、当初は30人超のスタッフがいる美容室で働いていたから、わかるんです。一人で働いていると、「人と関わりたい」という気持ちになるんですよね。undercurrentを作った理由の一つは“寂しさ”なのかもしれません。“個の自由”と“集団としての安心”って、本来どちらも必要なはず。undercurrentはその中間にある形態で、特定のブランディングやコンセプトは存在しません。個性の違う人たちが集まるけれども、「ここにいていい」と思える場所にしたかった。

Kanako:私たちからトップダウンで指示もしないし、縛りもしない。だからこそこの場所では、“自分が何を大事にしたいのか”に向き合ってほしいんです。美容師は国家資格で、どこででも働ける。だけど自分の軸が揺れていると、いろいろなものに流されて、自分で考える余裕がなくなってしまうことも多い。ここでは、働き手自身が自分を理解し、自立していくための“余白”を作りたいと思っています。もちろん、私たちも力になるし、相談に乗るけれど、自問自答の中で働いている美容師さんが自分に何が必要なのか、自分で気づいていく場所なんです。

―“寂しさ”という言葉は印象的ですね。
TAKAI:その寂しさって、他人と適度な距離でシェアすると少し和らぐんですよね。だから、フィジカルな場所って人間には絶対必要だと思うんです。
どれだけオンラインが発達しても、髪はリアルに触れられる場でしか切れません。だけど、フリーランスは個が尊重される分、どうしても孤独になりやすい。これから歳を重ねていく中で、SNS集客はいずれ限界を迎えるし、施術やスタイル作り、客層にも変化が訪れます。そういった変化にどう対応していくかを、一人で見つけることができるのか? 一人で見つけるのはきっと大変だから、自分以外の第三者の客観性を持ちながら対応できる場所があってほしいですね。
>大事なのは“場所”より“つながり”。場所を越えてつながるコミュニティへ