二十歳の頃、どう過ごしてた？ Hank.米澤香央里さんの二十歳の頃。
─仕事面でのモチベーションや目標はありましたか？
サロンで働き始めてからも、「ヘアメイクの仕事がしたい」という気持ちはずっと心の中にありました。なので、スタイリストデビュー後は、自分のやりたいことにもう一度向き合いたいと思い、別の場所に進むことを考えていました。
アシスタント時代に、CMのヘアメイクをされているお客さまがいらして、その方に「現場に行きたい」という気持ちをお伝えしたことがあったんです。ただそのときは、「アシスタントでは難しい」と丁寧にお断りをいただいて。スタイリストになったらもう一度自分の意思を伝えようと、ずっと心に決めていたんです。
デビュー後、サロンのスタイリストにも確認を取った上で、改めてその方にご連絡させていただきました。最初のサロンを退社後は、面貸しサロンで働きながら、CMのヘアメイクアシスタントとして現場に出るという生活が始まりました。
両立は思っていた以上にハードで…。当時はサロンワークよりもヘアメイクの仕事に気持ちが傾いていたこともあり、接客面では反省すべきことも多く、お客さまからご指摘をいただくこともありました。今でもHank.の堀江（昌樹）さんからは、この頃を「暗黒期」と冗談交じりに言われることがありますが、自分にとっては必要な時間だったと感じています
─念願のヘアメイクの現場はいかがでしたか？
その頃はCMの仕事が重視されていたので本数も多く、夜中の3時入りが当たり前、という過酷なスケジュールも少なくありませんでした。
指導してくださっていた師匠はとても厳しい方でしたが、それでもヘアメイクの現場にいる時間が、当時の自分にとっては唯一胸を張れることだったように思います。
─ヘアメイクに傾いていた気持ちが変わったのはいつでしたか？
26歳頃まで、いくつかの面貸しサロンを転々とする日々が続いていましたが、その中で大きな転機となったのが、「KOKORO」というサロンが運営する面貸しサロンに移ったことです。そこは内装もきれいで、今までとは違う整った環境で働くうちに、少しずつ「やっぱり美容の仕事って楽しいな」と思えるようになっていきました。
そしてご縁があって、29歳のときにKOKOROへ中途入社することに。入社後は、自分より年下のスタッフにアドバイスをもらったり、後輩と一緒にレッスンを受けたりと、プライドを捨てて一から必死に学び直しました。
そんな20代を経たこともあり、SNSが少しずつ伸びてきて予約が増え始めたのは30代に入ってから。外部の仕事をいただけるようになったのもその頃です。業界紙から初めてお声がけいただいたのは、35歳を過ぎたときでした。
多くの美容師が20代で次々とステップアップしていく中で、私の場合は、美容師という仕事に対する想いや熱量が芽生え始めたのは、少し遅かったように思います。
二十歳のみんなへ
今の私から伝えられることは「いつ、どんなチャンスが訪れるかわからないからこそ、日々できる限りの準備をしておくことの大切さ」かなと思います。
ありがたいことに、今では“デザインを求められる立場”になりましたが、ゼロから何かを生み出し、アウトプットする時には、これまでに自分が見てきたものがフラッシュバックするように引き出される、と言われています。
そう考えると、自分の中のストックはまだまだ少ないと感じるんです。では、それをどう増やしていくかというと、「日々の蓄積」だと思っています。たとえば、ピンタレストで1日5枚だけでも参考になるビジュアルを集めてみる。少し時間に余裕があれば、写真集を眺めてみたり、美術館に足を運んでみたり、映画を観たり——。どんなに小さなことでも、自分のクリエイティブの糧になるものを日々取り込んでいくことが、将来の引き出しにつながっていくはずです。
それに加えて、時間の使い方もうまくなってほしいと感じています。Hank.のアシスタントたちにもよく話すのですが、「モデハンだけをしなさい」とは言いませんし、そういう働き方をしてほしいとも思っていません。たとえば、朝はカフェでひと息ついてからモデルハントをして、午後は展示を見に行くなど、一日を自分なりに工夫して使ってほしいんです。
何かに向かって努力することは素晴らしいですが、追い込みすぎず、自分のペースを大切にしながら前に進んでいってほしいなと思います。
（文／リクエストQJ編集部 撮影／Yui Ogano）
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