デザインが一瞬で消費される時代に、何を創るのか? QUQU 楽人さんの「ブレイン解剖」
仕事の情報収集と趣味は別物! アニメはあくまでも趣味

好きなカルチャーはたくさんありますが、やっぱり僕といえばアニメ。昔からずっと好きで、かなり色々見ています。2〜3年前はいわゆる「萌え」系のジャンルが好きだったのですが、最近はカルチャー寄りの作品も見るようになりました。グッズも公式、同人(=ファンが自主制作で作ったグッズ)問わず、おしゃれだと思うデザインのものをかなりたくさん集めていて、家の中はポスターだらけです。
ただ、僕はそうした作品から仕事へのインスピレーションを受けることは皆無。趣味はあくまで趣味なので、自分の中では全く別の位置付けなんですよね。よく、映画からインスピレーションを受けると言う人もいますが、それは登場人物のヘアスタイルに刺激を受けていることがほとんどで、街で「あの人の髪かわいいな」と思って真似するのと同じ原理な気がします。

だって、作品自体のムードやその作品にしかない良さをヘアに落とし込むのってものすごく難しいと思うんですよ。本当の意味でその作品をオマージュしたら、映画の中の登場人物には勝てないですし、自分の色を加えるとしてもそれが作品にハマるとは限りません。なので、無意識のうちに影響を受けている部分はあるとしても、大々的にデザインのインスピレーションとして何かの作品の名前を出すことはあまりないですね。
じゃあ仕事面の情報収集やインプットはどうしているのかと言われたら、それもやっぱりSNSです。というのも、発信するプラットフォームがSNSである以上、そのスピード感についていかないといけません。それはつまり、どんなに他のメディアなどで情報収集に時間をかけて新しいデザインを生み出したとしても、その全てが一瞬で消費されてしまうということなんですよ。調べる時間と、消費されるスピードが全然割に合わない。

その一端としてあるのが、デザインには著作権がないので良いと思ったらすぐに真似されてしまうことだと思っています。僕のデザインも真似されることはありますし、そこを気にしていたらキリがないので「気にせずに作らないと」とは思うものの、あまり真剣に向き合いすぎるとすり減ってしまう気もしていて。今は、自分の負担にならないペースでインプットしようと思っていますね。それこそ、トレンドを追うためや仕事のためではなく、本当の意味で心から自分が好きなカルチャーをしっかり見ていれば、センスや感覚も自ずと付いてくると思うので。
苦い経験をしてもなお、ヘアメイクの現場に飛び込み続ける理由

僕が一番影響を受けている存在は、ヘアメイクさん。トミコノウィッグのKonoさんや、Kunioさんとか、めっちゃかっこいいんですよ。ヘアピースはもはや創作の域なので限界がなくて、常に見たことないものが生まれてくるので感動しますね。
僕も最近はヘアメイクのお仕事をいただくことがあるのですが、ヘアメイクの現場は美容業界の撮影とは違って、ヘアを作る時間はかなり限られるんです。正直「え、この時間でこれやるの?」と思うような現場もあるからこそ、「その中でここまで作り込んでいるのか」と凄さを肌で感じます。
そんな僕のヘアメイクデビュー戦はというと、今でも忘れられないほど悲惨なもので…。撮影前日に先方から送られてきたリファレンスがとても難しく、撮影の当日はプライドを捨て帯同してくれたメイクさんに「すみません、教えてください!」とお願いしましたし、結局、セットの時間も足りなくて半分以上手伝ってもらったんじゃないかな。準備不足を痛感した、かなり苦い思い出ですね。

その時の悔しさもあって、ヘアメイクは今後も力を入れていきたい仕事の一つです。美容師と近い仕事のように思えたから最初こそ自信があったものの、現場を経験するたびに美容師とヘアメイクの違いを思い知り、自分の不甲斐なさに打ちひしがれています(笑)。
ヘアメイクはキラキラした仕事に思われがちですが、現場に入ると「あくまで脇役で、裏方の仕事」だと実感することばかり。自分だけで完結する作品撮りとは違い、クリエイターさんやディレクターさんの作りたいものを反映する必要がありますし、アーティストさんのブランディングを崩さないように擦り合わせも必要で、個性を出すところとのバランスがすごく難しいですね。クリエイティビティに加えて、似合わせの瞬発力が必要なんですよ。
限られた時間の中で、クライアントのオーダーと、自分の表現と、似合わせのバランスを取った上で「その人を可愛くする」という難題に、頭を抱えることも多々あります。そしてそれが楽しいのか?と言われると…辛い(笑)。めっちゃ辛いけど、現場が終わった後はとても達成感がありますし、一番の楽しさは、携わったものが形になって残ることです。クレジットに自分の名前が載っているのを見ると、感慨深いですね。

一年ほど前には本気でヘアメイクをやりたいと思って資生堂のヘアメイク学校に行こうと考えたこともあったのですが、週に2〜3日通わないといけないことを知り断念。いつか時間ができたら学校に通いたいですね。
とりあえず、今はいただける仕事に必死に向き合って続けていけば、少しずつ依頼も増えていくんじゃないかなと思っています。経験を積んで、しっかり準備をして、サロンワークでもヘアメイクでも、常に新しい表現に挑んでいきたいです。

- プロフィール
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QUQU
creative director/楽人(らくと)
千葉出身。日本美容専門学校卒業後、FLOWERSに入社し、2015年にotopeのオープニングスタッフとして参加。2018年4月にスタイリストデビュー後、2020年にQUQUに移籍。独創的なセンスの持ち主で、デザインカラーが得意な美容師からも注目を浴びる。
Instagram:@ququ_raaakun7
(文/リクエストQJ編集部 撮影/菊池麻美)
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