ベーシックはハートで作る。美容業界のレジェンド、PEEK-A-BOO川島文夫 が示す美容師の仕事の本質-soucutsの庭Vol.3-
愛弟子が語る川島文夫と「現在進行形」の教育

左から栗原さん・川島さん・内田さん・内藤さん
内田:先生のお話、まだまだ伺いたいんですが、ここで“シークレットゲスト”ということで、川島先生について語っていただけるお二人をお呼びしています。
川島:ほんとにシークレットだねえ。君たち、なんで今日ここにいるの?
一同爆笑
内田:今日は、先生の愛弟子のお二人にも来ていただきました。まずは自己紹介をお願いしつつ、「川島文夫とはどんな人なのか」をお二人からも伺えたらと思います。
栗原:PEEK-A-BOOの栗原です。よろしくお願いします。
内藤:同じくPEEK-A-BOOの内藤です。よろしくお願いします。
内田:よろしくお願いします!先生を目の前にして言うのもなんですが、「川島文夫を丸裸にする」という企画なので、先生とはどんな人かをお二人にも。
川島:ちょっとごめん!ここにいづらいので、抜けますね。
(川島先生、一時退席)
内田:(笑)まずはお二人の関係性というか、PEEK-A-BOOでの立ち位置も含めて自己紹介をお願いできますか。では栗原さんから。
栗原:もともと新宿店舗の店長をやっていました。今は、並木通り店のアートディレクターという立ち位置でやらせていただいています。
内藤:僕はPEEK-A-BOO表参道で、店長を務めています。
内田:先生とのお付き合いは何年くらいなんですか?
内藤:僕は入社して25年になるので、25年のお付き合いですね。
栗原:僕は23年です。
内田:本当に愛弟子と言っていいお二人ですね。今回は、僕と先生の対談という形なんですが、恐れ多すぎるなっていうのと、この数分お話ししているだけでも、僕が丸裸に切り込むきっかけがないなと思ったので(笑)。なので、先生の代弁者という形でお二人に来ていただきました。ズバリ、「川島先生はどんな方か」。お二人に一言ずつお聞きしたいと思います。
栗原:そうですね。内田さんもおっしゃっていましたけど、めっちゃポジティブな方で。近くにいると、なんだか元気になるんですよね。

内藤:なんか、怒られたことでも人に話したくなるよね。
内田:ちなみに、お二人は先生から直接指導を受けることもあるんですか?
内藤:ありますね。今でもあります。ウィッグを見てもらいます。
内田:そっか。対外的に講習もやってらっしゃいますもんね。先生は今でもハサミを持っているし、一緒に学ぶ機会があるということですよね。これまで、叱咤激励されてきたんですか?
内藤:はい笑
内田:結構、ガツンと言われることも?
内藤:最近はないですけど、昔はありましたね。20年前は。
内田:当時のエピソードで、「こんなふうにガツンと言われた」という話があれば、ぜひ聞きたいです。
栗原:実は僕、それ考えてきたんですけど…あんまり記憶がなくて(笑)。ただ、先生はよく「栗原さんはセンスがいいから」と言ってくれるんです。でも、僕自身はそんなにセンスがいいとは思っていなくて。「なんで先生はそう言ってくれるんだろう」と考えるんですよね。それで、「もっとセンスを良くしたい」と思うようになって。どうすればいいんだろう、こうした方がいいんじゃないか、っていろいろ考えるようになりました。だから、ある意味では“無言の激励”だったのかなと思います。

内田:もしかすると、ガツンと怒るような世代ではなかったんですかね。さらに上には重鎮の方々もいらっしゃるじゃないですか、先生からするとお弟子さんでもありますけど。そうなると、孫弟子のような感覚なんでしょうか?
(川島先生、戻ってくる)
川島:いや、そんなことないですよ。逆に僕の先生です。
内藤&栗原:何をおっしゃいますか(笑)。
川島:時代って、どんどん目まぐるしく変わっていくじゃないですか。昔よかったものが、これからもずっといいとは限らない。だから僕がいつもリスペクトしているのは、やっぱり若者。まあ、彼ら(内藤さんと栗原さん)は若者でもないんですけど、僕から見たら若者じゃないですか。彼らだって、平々凡々と美容人生を歩んできたわけじゃない。20年の積み重ねがあって、それを今、爆発させている。次の世代に向けて発するメッセージがすごく強いんです。正直、もう僕の出る幕じゃないと思うくらい。センスもあるし、時代の感覚もとても爽やかです。
そういう人がチームの一員であることが、僕は嬉しいなと思います。PEEK-A-BOOをやってきて良かったなと思うことがたくさんあります。もちろん、彼らの上にはまだ先輩たちもたくさんいて、それぞれが自分の世界を持っています。でも彼らも、これからまた波に乗って、また素晴らしい作品を作るんですよ、惚れ惚れとする。「いやあ、俺もそういう作品作りたいな」って思うことが、いつもあります。
内藤&栗原:ありがとうございます。頑張ります。

内田:先生からすると、お二人も愛弟子だと思いますが、さらにその上には歴代の弟子の方々がいて、すでに“先生”と呼ばれるような美容師もたくさんいらっしゃいますよね。なのに、今でも対外的な講習を続けていて、僕が知っているようなトップレベルの美容師にも教えている。どうして、今でも美容師を教え続けているんですか?
川島:やればやるほど、新しいテーマが出てくるんですよ。もしやらなければ、そこで終わってしまう。すべてが過去形になってしまいます。自分自身もそうですし、PEEK-A-BOOも“現在進行形”でありたい。常に「ing」の状態でいたいんです。
技術というのは、10年、20年とやっていると、ある程度キレイにできる方程式がわかるんです。皆さんもそうだと思うんですけど、これをやったらある程度、自分のラインができるとか。しかしながら、技術が卓越して上手になると、反比例して情熱というのが薄くなってくるんですよ。一方で、技術がそうでない人はやっぱり情熱が強いじゃないですか。たとえば22歳、23歳くらいの人は、すべてが未知の世界ですからね。映画の『未知との遭遇』みたいな感覚ですよ(笑)。
僕は、技術と情熱が正比例している人が一番いいと思っています。技術はあるけれど情熱がなくなってしまって、新しいものに拒否反応を示してしまう。そうではなくて、新しいものを素直に受け止めて、「これが今なんだね」と言える人がいい。未来のことはわかりません。僕は占い師じゃないので、5年後にどんな髪型が流行るかなんてわからないし、そういう問題じゃなくて、大事なのは「今」なんです。現在進行形の「ing」がどう続いていくか。それが、その人の許容量なんじゃないでしょうか。
よく「昔こんな作品を作ったよね」と言うこともありますが、それはあくまで終わったこと。大切なのは、これからどう進んでいくかです。だから僕は、若者文化が大好きなんですよ。電車でいえば、乗り遅れないように必死でドアにつかまっている感じですね(笑)。それが、今の僕のスタンスです。
内田:今でも若いスタッフの方とコミュニケーションを取ることは多いんですか?

川島:僕は毎日サロンに出ているので、1年目のスタッフともよく接しますよ。専門学校を卒業して入社したばかりの頃は、誰でも最初は床掃きくらいしかできないじゃないですか。でも、1〜2カ月するとシャンプーができるようになって、やがてブローやドライ、カラーなど、少しずつできることが増えていく。その成長のスピードは、昔よりもずっと早いですね。ついこの前まで、下手くそだなと思っていた子が、急に美容師らしくなってくることもある。その過程を見るのが、僕はすごく好きなんです。
もちろん、なかなか成長しない人もいます。正直、「早く美容師を辞めた方がいいんじゃないか」と感じることもあります(笑)。でも、だからといって放っておくわけにはいかない。「これとこれをやればできるようになるよ」と伝える。それが教育なんじゃないかと思います。
そもそも、最初から上手な人なんて誰もいません。だからこそ、若い人たちの背中を押してあげる。援護射撃をしてあげる。それがチームワークだと思うんです。
では、ディレクターばかりいていいのか。そうでもないと思います。時計と同じように小さい歯車、中間の歯車、そして振り子まで連動していいチームワークが生まれる。これがないと美容室は円滑にできないと思います。中には、マルチタレントみたいな人もいて、なんでもできるんですけど、なんでもできるからと言って継続できるとも限らない。だから僕は、むしろ少し無器用なくらいの方がいいと思うんです。少し足りないところがある方が、自分で努力し続けるから、結果的に長く続くんじゃないかなって。
内田:先生ご自身も、苦手なことは人に任せてチームでやっていく、というスタンスなんですか?
川島:苦手なことって、ないんだよね(笑)
一同爆笑

川島:川島文夫って、実はロングヘアをやらせたらめちゃくちゃ上手いんですよ(笑)。ただ、メディアではあまりそういう作品を発表していないだけで。
実際のところは、髪があれば何でも好きなんです。
内田:先生はいまでも、ほぼ毎日サロンに出ていらっしゃるんですか?
川島:そうですね。楽しいじゃないですか。朝、みんなの顔を見て「おはようございまーす!」って声をかける。「元気?」って聞くと、みんな「元気です!」って返してくれる。それがやっぱり、モチベーションにつながるんですよ。若い人にはポテンシャルがありますからね。そういう力を、ちゃんと理解してあげないといけないと思うんです。どんな分野でもそうですが、文化というのは若い人から生まれてくるものです。ファッションもそう。だから僕たち美容師も、「美容師」という枠に閉じこもるんじゃなくて、洋服のデザイナーがデザイナーであるように、ヘアをつくるデザイナーなんだという気持ちを持たないといけない。
威張る必要はありませんが、昔はね、「何のお仕事されてるんですか?」と聞かれて「美容師です…」と、どこか恥ずかしそうに答える人もいた。でも、それじゃダメなんです。「私は美容師です。最高の仕事です」そう胸を張って言える人になってほしいと思います。
「ギラギラがキラキラになる」美容師の成長論

内田:先生がPEEK-A-BOOを立ち上げて、来年で50周年ですよね。長い歴史の中で、いまも第一線で活動されているのは、この数十分のお話を聞いただけでもよくわかります。
そこで、あえてお二人にお聞きしたいんですが。PEEK-A-BOOに20年以上いらっしゃって、いま第4世代くらいまで来ているんでしょうか。お二人は第3〜第4世代くらいになると思うんですが、サロンが変化してきたという実感はありますか?
栗原:ありますね。僕が入社した23年前と比べると、時代も変わっていますし、人も変わっていく。スタイルに関しては、軸は変わらないんですけど、その時代に合ったものをバランスよく取り入れていくスタンスです。
ただ、「こんなふうに変わるんだ」と思う瞬間は結構ありますね。
内田:変化を感じる時がある。
栗原:はい。一気にガラッと変わることもあります。
内田:それは、先生も含めて「変化を仕掛けていこう」という意識があるんですか?

栗原:そうですね。ファッションやヘアの大きな流れが変わるタイミングってあるじゃないですか。そういうときに、各サロンのトップや先生も含めて、感度の高い人たちが多いので、舵取りが変わるんです。「あ、方向性が大きく変わったな」と感じる場面は、これまで何度かありましたね。
内田:栗原くんと内藤さんのヘアスタイルをみて、アドバイスすることとか、時代性を話したりとかすることっていうのはあるんですか?
川島:ありますね。作品を見せていただいて。良いのを作るよね。
内田:ちゃんとヘアスタイルで会話するんですね。
川島:そうですね。「お、これ誰が作ったの?」って驚くことがある。それがいいんですよ。若い人の作品って、夢があっていいと思うんです。多少雑でもいい。繰り返していくうちに、少しずつ良くなっていきますから。雑でいいんですよ、雑で。
僕がいつも言っているのは、若い美容師はギラギラしていた方がいいの。いつしかその濁音が取れて、ギラギラがキラキラになる。でも、ギラギラしなかった人はキラキラにならない。今彼らはちょうど、キラキラしてる時。その先はどうなるのかって? それは僕にもわかりません(笑)。でも60歳過ぎて、ギラギラしてたら今度はスターダストって言われちゃうよね(笑)。その頃になったら、さらさらさらってしてるのがいいの。歌の文句じゃないけど、時の流れに流されて。これが一番いいんじゃないですか。
若い時は反骨精神も必要。でも、我々は世界を動かせません。世界を動かすのは、社会です。我々は、そこの手助けをするだけで十分。俺はピカソになる、俺は何々になるとか、そんな大それたことはできない。ちょうど今オリンピックをやっていますけど、フィギュアスケートや大回転の選手たちのようなことは、我々にはできない。
でも、我々にはできることがある。ハサミとコームを使って、人をハッピーにすること。
これがやっぱり我々の仕事なので、その領域からははみ出さないように。アスリートの大回転する人も、カットできないじゃないですか。カラーもできないじゃないですか。だからこそ自分達が、「我々は美容師だ」ということにもっと誇りを持って進むべきだと思います。
手段はいろいろあります。でも、手段より大切なのは、Be the best you can be。自分を信じて、自分のベストを尽くすこと。それを持っている人が、どんなジャンルでも“ウィナー”になるんじゃないでしょうか。
内田:もう、うなずくしかないですね(笑)。

内藤:実は毎月「月例会」という先生の勉強会があって、こういう話をする時間があるんですよ。僕にとって川島文夫先生は、お師匠様であり、父親のような存在ですね。プライベートでもゴルフに行ったりしますし、なんでも相談できる人です。迷ったときには、先生の考え方が自分の判断基準になる。そういう存在がいること自体が、僕にとっては幸せなことだと思っています。もちろん怒られることもありますけど、そこには愛がある。そして常にポジティブなんです。だから、僕たちもそうありたいと思っています。
内田:先生とサロンワークをご一緒にしたことはあるんですか? それこそアシスタント時代とか。
内藤:必ず先生のアシスタントを通るので。その時は楽しくてしょうがなかったですね。
栗原:3カ月間つくんですよ。
川島:3カ月もずっと教えること、何もないよね。
栗原:あっという間ですもんね、3カ月とか。
内田:デビューするときは先生の元につくっていうのが、もう恒例なんですか?
内藤:今はそれが全員は無理なんで、選ばれた子たちが、という形になっています。本当は全員に通ってほしいなって思うんですけど、人数も増えてきちゃって。