ネットで拾える情報からは真のクリエイションは生まれない? une 渡邊なつきさんの「ブレイン解剖」

トレンドの一歩先を行くクリエイティブを生み出す美容師は、どんなスタイリスト揃いヒトやモノにインスパイアされるのか。クリエイティブな感性を持つ人たちに直撃取材し、紐解いていくのがこの企画「ブレイン解剖」です。
今回は、独特の感性を放つune(ウネ)で活躍する、渡邊なつきさんが登場。ユニークな視点で作るクリエイションはたくさんのコンテストで好成績を収め、業界内でも注目されています。昨年からSNSで「その人のパーソナリティを想像力で形にする」をコンセプトにした#なつきの物語ヘアー という企画を開始。常に新しいことに挑み続けて進化する、なつきさんの感性の源を探りました。
自然や光景、言葉がインスピレーションの源泉

前回の取材から8年ほど経ち、現在はuneに拠点を移し美容師を続けています。今までお世話になってきた場所では、本当に宝物のような経験をさせていただきました。
uneに入社する前の2年間は、フリーランスとしてヘアメイク活動と美容師の仕事に励んでいました。年齢を重ねる中で「今後どのような形で美容師をしていこうかな」と考えていたときに、気になっていたuneに髪を切りに行くことに。ナチュラルでこだわりが詰まった空間が新鮮でしたし、なによりフレッシュな雰囲気が気に入って、活動拠点を移すことにしました。
環境が変わることで、新しい視点が生まれた部分もあります。例えば“抜け感”だったり、足し算のちょっとしたニュアンスが新鮮で、自分のスタイルにもスパイスとして取り入れていこうと思うようになりました。uneに来たことで、スタイルについてさらに深く考えられるようになったと感じます。

私はこれまで様々なコンテストに出場してきて、業界誌での作品撮りにも挑戦させていただきましたが、作品のインスピレーションは、自然や、ふと目にしたシーンからもらうことが多かったですね。夜に表参道エリアをランニングする習慣があるのですが、その時間もすごくいい刺激をもらえます。走りながら「この木肌は迷彩柄みたいだな」とか、「あの大使館の銅像可愛いな」なんて思ったり。深夜だとハイブランドがディスプレイの入れ替えをしていることがあって、店内に大きな桜の木をそのまま植え付けていたり、フレームの木材をセッティングしていたり…。そんなちょっとした光景が、いつかクリエイティブの要素になっていきます。
また、私のお客さまは面白い感性を持っている方が多いので、お客さまとの会話がインスピレーションになることも。お客さまも私の創造性に期待してくれて、例えば、風景写真を一枚見せてくれて「これが今日の気分です」とか、「今日は、三角と丸で」と抽象的な表現でオーダーされることもあります。それをスタイルに落とし込む難しさもありますが、どう紐解いて調理していくかを考える、その過程がとても有意義で楽しい時間だと感じますね。それを形にするために補助的な言葉をもらうときにも、自分にはない視点を感じて面白いです。
図書館で情報を掘り下げ、作品に落とし込む

作品を作るときに気になるテーマがあれば、図書館に行って掘り下げるようにしています。以前「宇宙」がテーマのときは星の形や色について調べたのですが、若い星は青く見えて、年を重ねた星は赤く見えるということを知り、若さが欲しいクリエイションには青を使ってみたりして作品に落とし込みました。今は何でもネットで情報を得られる時代ですが、私は図書館で調べるのが好きですね。ネットに書いてあることはみんなが知ることができるので、そこにない情報に触れることができれば作品により深みが出ますし、資料を探すうちに関連書籍が目に入ると「これもありかも」と選択の幅が広がります。
本以外の媒体だと、雑誌も好きです。指でページをめくる行為や紙のにおいも含め、五感を使いますよね。内容もネット上で読むよりスッと頭に入ってくるので、印象が色濃く残りやすい気がします。写真集や大型本もよくチェックしているんですが、ストリートファッションの歴史をまとめた『ザ・ストリートスタイル』(グラフィック社 著・高村 是州)も、すごく好きな本です。いろんな年代のファッションやヘアスタイルがイラストで説明されていて、なぜそのファッションが流行ったのかという背景も知ることができるのでおすすめです。

他に好きなカルチャーといえば、民族文化ですね。以前「モヒカン」で作品を作りたいなと思って調べていたら、モヒカンはネイティブアメリカンのモホーク族の髪型が由来だということがわかったんです。モヒカンはサイドが刈り上げのスタイルですが、弓を引くときにサイドの髪が邪魔にならないように剃ったことが始まりだそうで…。つまり、生活に寄り添ったデザインで、すごく理にかなっていたんです。文化に根付いた自然体のデザインに惹かれますし、私もそういうものを作りたいなと思いました。

作品作りで「どういう人物像なのか」を考える際に、インスピレーションの素になった文化や歴史の背景を知っていると、どんな暮らしをしているのか?ということまで想像できます。そうすると「弓を引くと頬が汚れるだろうから、頬に土をつけてみようかな」と考えることができるんですよ。ただ雰囲気を寄せるのではなく、自然につく汚れや日焼けなどをメイクで表現することで、作品に深みが出ます。歴史を掘り下げるとさまざまな視点が生まれるので、作品に面白みが増していくのかなと思っています。
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