「海外行け!」のワタロー vs 「日本でかませ!」の内田聡一郎 美容師ふたりの価値観バトル【前編】

統制か自由か? 日本の教育とロンドンでの気づきを得て芽生えた出店願望

 

 

内田:それで言うと、日本の美容室はどっちかと言うと統制する教育だよね。

 

ワタロー:そうなんですよね。自分はそれがハマったから売れることはできたんだけど、どこかで爆破力は失ったのかもな、と。ただ、一方で当時はLIMのカリキュラムにはなかったブリーチやブレイズを勝手にお客さまを連れてきてやって、勝手に技を磨いていたんですよね。

だから、教育しすぎるのもよくないんじゃないかと思ったんです。

 

内田:教育しないのが一番の教育、って言いたいんだね。でも、それでハイプレイヤーになれれば結果オーライだけど、そうじゃない人の方が多いよね。

 

 

ワタロー:僕は、それでいいと思っていたんですよね。これまでは。でも、ロンドンに行ったことで、「なんかうまくやりたい!」という気持ちが芽生えました。僕はこれまで自分の店を作るとか考えたことがなかったけど、これから、育てる“余裕”が出てきたらアリなのかもしれない、って。でも、オーナーになると自分軸ばかりではいられないと勝手に思っていて……内田さんはどうですか?

 

内田:そうだね。実際に店を出したり教育したりするってなると、どうしても他人軸に重きを置くから、自分軸でいられなくなることに不安になるよね。俺も、ずっと自分軸で生きてきた人間だから、いまだにフラストレーションを感じることもある。

一方で、自分の体験と照らし合わせると心技体がキープできる美容師としての絶頂期は35〜40歳くらいだと思っているの。プレイヤーとして輝けているうちはOKなんだけど、そうでなくなる瞬間は必ず来るから。トレンドを牽引するとかユースカルチャーにコミットすることの次に、人を育てるとか店を作って発展させていくことにステップを進めたんだよね。クリエイティブに領域が変わってきたというか。

それで言うと、ロンドンでの美容師のキャリアパスはどうなるの?

 

 

ワタロー:僕もまったく同じ疑問を持っていたのですが、セッションやヘアメイクの現場だと、ピークで活躍している人って50歳くらいなんですよ。

 

内田:サロンで美容師をするのとはまた違う世界があるわけね。

 

ワタロー:本当のことを言うと、東京で同年代が独立していくのと同じようにするのが嫌だったから海外に逃げたというのもあるんです。そこでエイジレスな世界もあるってことを知れたのはよかったです。

でも、僕も最近他人軸で幸せを感じられそうって思ったんですよ。

 

内田:何かきっかけがあったの?

 

 

ワタロー:ロンドンに行って、かつてないくらい知り合いが増えたんですよ。ファッションの世界でセッションをしているような人もそうだし、いわゆるエリートじゃない……バイトをしている美容師とかも一緒に仕事をするようになったんです。僕は長らくLIMにいたので、内田さんが言っていたように、王道で売れる美容師を作っていくサロンしか作れないと考えていたんですが、そうじゃなくて常識の世界観にとらわれず輝ける人を生み出せるサロンを作りたいんですよね。そして、それが日本とロンドンを行き来する美容師の架け橋になればいいな、とも考えています。

 

内田:なるほどね。雑草のポテンシャルを引きずり出すみたいな。でも、繰り返しになるけど、ワタローみたいにロンドンで輝ける人は少ないと思うよ。結局は実力とガッツが必要じゃん。場所が変わってもそれがないとできないわけだから。それは、ロンドンには行かずに、日本でもできることがあるんじゃないかって、俺は思うんだよね。

 

 

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プロフィール

ワタロー/『Haco+』アートディレクター

1990年生まれ、千葉県出身。ベルエポック美容専門学校を卒業後、大阪のデザイナーズサロンに入社。4年間のアシスタント期間を経て、2016年東京店オープニングスタッフとして上京、デビュー。その後ディレクター職まで経験し、ヘアメイクや美容専門学校講師としても活躍。2023年の渡英をきっかけに、ロンドンに本店をもつサロン『Haco』への参画を決意。11月にオープンした東京店『Haco+』にて、アートディレクターとして新たなキャリアをスタート。

 

内田聡一郎/『LECO』代表

2003年より原宿のサロンでトップディレクターとしてサロンワークをはじめ、一般誌、業界誌、セミナー、ヘアショー、著名人のヘアメイク、商品開発など様々な分野で活躍。2018年 渋谷にLECOをオープン、2020年 セカンドブランドQUQUをオープン。代表として今後一層の活躍が期待されている。著書「自分の見つけ方」(2013年)、「内田流+αカット」(2017年)、「内田本」(2018年)を発売。また、シザーやシザーケースなどのオリジナルプロダクトも発売中。

 

(文/須川奈津江 撮影/菊池麻美)

 

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