否定され、迷い、それでも信じた 人生を導いた「言葉の羅針盤」 Null代表 松岡諒さんのコトダマ

第一線で活躍する美容師たちの人生を変えた「言葉」に迫る連載企画「美容師のコトダマ」。今回登場するのは、Null(ヌル)代表の松岡諒(まつおかりょう)さん。美容学生時代から起業を志し、美容師・経営者という二つの軸を行き来しながら、自分だけの道を切り拓いてきました。
これまでのキャリアの中で、何度も立ち止まり、悩み、それでも前に進めた理由――そこには、人生の節目ごとに松岡さんを支えてきた「言葉」の存在がありました。否定された一言、救われた一言、覚悟を決めた一言。今のNull、そして松岡諒という生き方を形づくった“人生を動かしたコトダマ”を紐解きます。
「君の考えている事業は、小遣い稼ぎにはなるかもしれないけれど、何かを成し遂げるものにはならないよね」

美容学生の頃の僕は、とにかく起業したかった。美容師としてどう生きるかよりも「事業をつくる側」に立ちたいという気持ちのほうが先にあった気がします。美容学生と美容室オーナーをつなぐ仕組み、就職のマッチング、SNSを使った発信の場づくり。今思えば、どれも業界の課題を解決したいというより「ビジネスになりそうなアイデア」でした。
そのタイミングで、GO TODAY SHAiRE SALONの大庭さん(代表取締役 大庭邦彦氏)に事業の相談をさせてもらう機会があり、週に1〜2回ほど、ピッチのような形で話を聞いてもらっていました。自分なりに考え抜いたつもりの事業案を説明し終えたあと、返ってきたのがこの言葉でした。

やはり、「小遣い稼ぎ」という言葉が、胸に突き刺さりました。自分なりに本気だったし、時間もエネルギーも使っていたからこそ、否定されたように感じたんだと思います。でも、時間が経って冷静に振り返ると、あの言葉は事実であり、とても本質的でした。
僕は「どれくらい儲かるか」「ビジネスとして成り立つか」ばかりを考えていて、「何のためにやるのか」「誰を幸せにしたいのか」という問いが抜けていたのだと思います。事業は目的じゃなく、手段。その手段で何を成し遂げたいのかがなければ、途中でブレるし、続かない。この一言が、僕の中に最初の大きな問いを残しました。
「まず人生のコンパスを持つことが、共鳴や引き寄せを生む」

起業したい気持ちは間違いない。でも、自分は何のためにやりたいんだろう。その問いに答えられないまま、悶々と悩む時間を過ごしていました。
そんなときに出会ったのが、SHOWROOMの前田裕二さんが語る「人生のコンパス」という考え方でした。
それは、進むべき正解を教えてくれる地図ではなく、迷ったときに“自分はどちらを向いて生きたいのか”を確かめるための指針のようなもの。「ああ、自分にはこれがなかったんだ」と、ストンと腹落ちした感覚があったんですよね。
改めて自分は、なぜ起業したいのか。どうして美容師だけにとどまらず、ビジネスにも関わりたいのか。そこで出てきた答えはとてもシンプルでした。「大切な人たちを守れる人間でいたい」。そのためには思いだけでは足りない。人間性、能力、そして現実的な財力を持ちたい。それらすべてを手に入れるために、どんな選択をするのか。その判断基準こそが、自分にとっての「人生のコンパス」なのだと、ようやく気づいたんです。

学生の頃から、美容室オーナーさんや先輩美容師の話をたくさん聞いてきました。誠実で、愛情深く、必死に現場を守っている人たち。でも報われない姿もたくさん見てきた。だったら、自分はせめて、そういう人たちを守れるようになりたい。その想いが、自分の中で一本の軸になりました。
人生のコンパスを持ってから、不思議と出会いや仕事の質が変わりました。無理に行動を広げなくても、経験すべき仕事や事象、価値観が近い人との出会いが自然と集まってくる。人生の軸が定まると、仕事も、人も、自然と引き寄せ合い、揃ってくる。その感覚を、身をもって知りました。
>「最初に地に足をつけた場所がぬかるんでいたら、必ずこける」