びよう道 vol.20  gem森川丈二さん 〜取り掛かる前に完成予想図を描け。あらゆる観点から完璧を追求しろ。ただし、足跡を残してはならない。〜

 

美容室でも待遇や休日が大切と言われる時代。もちろんそれも大切ですが、美容人生のどこかで“心も体も美容でいっぱい”という時期があってもよいかもしれません。

 

「びよう道(みち)」は、そんな地道で壮大な鍛錬の道を歩んできた“美容の哲人”に、修業時代に一人前になったと思った瞬間や美容の哲学など、それぞれの美容の道を語っていただく連載企画です。

 

第20回目は、雑誌・広告のヘアメークやヘアショー・セミナー・コレクションなどの活動を国内外で展開してきたgem代表の森川丈二さん。JHA(ジャパン・ヘアドレッシング・アワード)においての、最年少グランプリ受賞の他、数々の受賞暦を持ち、所作の美しさと多彩な表現から「魔法の手をもつ」とも言われています。今回はそんな森川さんに、修行時代から心がけていることや仕事の流儀についてお話しいただきました。

 


 

「明日の撮影、お前ならどうする?」師匠マサ大竹の問いかけの意味

 

 

僕の師匠は日本を代表するヘアメイクアップアーティストであり、今は資生堂学園理事長をつとめているマサ大竹さんです。資生堂在籍中はマサ大竹さん率いるアトリエMASAのメンバーとして、4年間アシスタントにつかせていただきました。振り返ると、師匠に認めてもらいたいという気持ちが、自分を成長させてくれたと思います。

 

 

現場に同行するようになったある日、大竹さんから、「明日の撮影どうしたらいいか?考えとけよ!」という指示がありました。最初のころは宿題程度にしか考えられていなかったと思います。現場での経験を重ねていくうちに徐々に主体的に考えられるようになってきたのです。撮影の依頼がきたときに、それがどんなテーマで、どんな媒体に掲載されるのか。今回はどんなヘアスタイルが求められているのか。それに合うモデルさんやファッションはどんなものかなど、その都度、自分で考えた上で現場にのぞむようになりました。

 

 

アシスタントの経験を積むにつれ「あのとき、僕のこのアイディアを採用してもらえたら、どんな仕上がりだっただろう」などとイメージできるように。毎回、撮影の段取りやヘアスタイルについて紙に書くようにしました。例えば、1日の撮影で複数のヘアスタイルを作るとき、「1回1回髪を洗うわけにはいきませんから、このヘアスタイルから始めてアレンジするのはどうでしょうか。今回予定されている衣装にも、雑誌のトーンにも合うと思います」という具合に師匠に自分のイメージを伝えるようにしたんです。すると師匠は「そうか、そうか」とおっしゃって、僕の書いた紙をカバンにしまいました。

 

 

あるとき、撮影の帰り道に「あれでよかったか?」と言われたことがあります。「なんのことですか?」と尋ねると「ほら、あれだよ。お前が提案してくれたヘアスタイルのことだよ」と言ってくれたんです。僕は訓練の一環で「どうしたらいいと思う?」と聞かれているのかなと思っていましたが、実際に僕の提案を採用してくださっていたんですよ。もちろん、僕のアイディアをそのまま使うのではなく、師匠のアレンジが加わっているわけですが、それでも自信につながりました。

 

>いつも「自分の撮影」だと思ってやってきたから独り立ちも怖くなかった

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