◆at’LAV◆ by Belle 冨山倫宏さんのびよう道 カリスマ美容師時代の過酷なサロンワークを生き抜き「技術がすべて」を証明。 デビュー直前に脱落者が続出! 限界突破の25年を経て見えてきた、美容師の流儀
美容師としてステージが変わっても悩みは尽きない

美容師として、経営者として、今も課題は数え切れません。Bellは人が多いぶんケースも多彩で、教育体制の整備は欠かせません。僕はカリキュラムがカットに入っているアシスタントを対象に月2回の講習を行い、各スタイリストにも月2回ずつ指導日を設けてもらっています。さらに定期的なカットチェックを実施し、スタイリストデビューが決まる最終チェックをします。とはいえ、大所帯ゆえに「いったい何人を見ればいいんだ」と思うこともあります。でも技術が全ての根底なので、手を抜くわけにはいきません。新しくデビューするスタッフは必ず社内チェックを通過しなければならず、チェック当日はほぼ立ち会います。
離職者数は年度によって大きく変わります。ゼロだった年もあれば、方向性の違いで数人が辞めた年もありました。それでも業界平均と比べれば少ない方だと思います。離職率を低く保てている最大の要因は“早い段階での傾聴”です。

各店の責任者が日常的にスタッフの悩みを聞き、解決できなければすぐに経営陣へ共有します。話せる相手がいないと人は辞めてしまいます。若手が抱える悩みは、技術への不安、人間関係、将来への迷い、フリーランスへの興味など多岐にわたります。外を経験して戻って来たスタッフの声は、社内の離職防止にも役立っています。
僕たち経営陣が常に意識しているのは、スタッフ全員が成長できる働きやすい環境づくり。店長・副店長・マネージャー、そして代表3名で何度も話し合いを重ね、「できない」で終わらせず、意見を形にする仕組みや柔軟な考え方を導入してきました。
まだまだ半人前――難しさと責任の重さを戦い続ける

美容師として「一人前になった」という実感はいまもほとんどありません。尊敬できる美容師が周りにたくさんいて、彼らを見るたびに「まだまだだ」と思わされるからです。
それに、ひとつの課題を乗り越えればすぐに次の悩みが現れる。しかも最近の悩みは、自分のことではなくスタッフのためのものばかりです。「どうやったらこの人がもっと成長できるか」「どうすれば働きやすい環境をつくれるか」。経営者としてステージが上がるにつれ、人のための課題のほうがずっと大きくなりました。難しさと責任の重さを痛感しつつも、それこそが経営者としての仕事だと思っています。

つまずいたり悩んだりしたとき、現実を変えられるのは自分だけ。技術も同じで、考え、試行錯誤し、学び、練習し続けて初めて腕は磨かれます。もしこれを読んでいるあなたが一流になりたい、撮影の仕事も手がけたい――そう思うなら、まずは自分が「楽しい」「興味がある」と感じることを徹底的に突き詰めることから始めるといいと思います。好きなことをやり続ければ、自然と上達し、見えていなかったものが見えてくるはずです。

- プロフィール
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Belle group /代表
冨山 倫宏
鹿児島出身。青山・原宿の有名店を経て2007年、表参道に◆at’LAV◆を開業し代表ディレクターを務める。骨格補正ショート・ボブに定評があり、女性誌やセミナー、商品開発でも活躍。「髪を通して心に響くデザイン」が信条。20年以上のキャリアでモデルや同業美容師から厚い支持を集め、KAMI CHARISMA 2024・2025で2つ星受賞。
(文/外山武史 撮影/菊池麻美)