MINX池戸裕二のびよう道 売れない30万円スタイリストから取締役へ 自分の概念を壊した先に、次のキャリアが待っている

美容室でも待遇や休日が大切と言われる時代です。もちろんそれも良いですが、美容人生のどこかで“心も体も美容でいっぱい”という時期があっても良いかもしれません。
「びよう道(みち)」は、そんな地道で壮大な鍛錬の道を歩んできた“美容の哲人”に、修行時代に一人前になったと思った瞬間や美容の哲学など、それぞれの美容の道を語っていただく連載企画です。
終電後のレッスン、練習と反省の毎日。青山店で厳しい修行を経て、池戸裕二(いけどゆうじ)さんはスタイリストとしての道を歩み出します。売れない現実に直面しながらも、自らを見つめ直し、人気美容師へと進化を遂げました。現在はMINX(ミンクス)のディレクター兼取締役として、サロンワーク、商品開発、教育、発信に力を注ぐ池戸さん。変化に向き合い、自分を更新し続けてきた池戸裕二さんの「びよう道」をたどります。
「これが修業なんだ」オシャレなサロンと真逆の世界

MINXは下北沢発祥のヘアサロンです。カリスマ美容師ブームで勢いを増すMINXが、ちょうど青山店を立ち上げるタイミングで僕は入社しました。地元・長野の美容学校を出て、反対されながらも上京したんですよね。その頃ってまだSNSもないし、情報も限られていて、「東京の美容室ってどんなところなんだろう」って、正直よくわかってなかったんですよ。
で、いざ飛び込んでみたら……想像していた“オシャレな都会のサロン”とは全然違いました。今は違いますけれど、当時の青山店は体育会系。今のMINXは先輩もみんなやさしいし驚くほど環境も良いですが、当時は業界全体が技術を磨くために全力を注げ!という時代でしたね。

当時は「これが修行なんだ」って思っていた。しかも僕は不器用だったし、同期も多くてレベルが高かったんです。だから、とにかく練習するしかなかった。営業終わりにアパートに帰って、夜中まで練習して、そこから遊びに行って、始発で帰ってまた練習して。

でも、きついとは思わなかったんです。なぜなら、先輩たちがめちゃくちゃかっこよかったから。厳しいけど、誰よりも真剣で、技術も高くて。だから、僕はチェックに落ちた時、めちゃくちゃ泣いたのを覚えています。不甲斐ないし、毎日遅くまで練習に付き合ってくれた先輩に申し訳なくて。それくらい真剣だったし、周りも本気だったんですよ。