元ひきこもりの美容師の挑戦。「いらっしゃいませ」も言えなかった青年が、自身の原体験を胸にお客さまを救う―ビューティフルライフプロジェクト吉澤智洋さん

ひきこもり支援団体に直接プレゼン。お客さまの表情の変化を見るたびに過去の体験を思い出す

 

 

BLPの目的は、自信を失った人に起こる負のスパイラルを断ち切り、社会復帰のきっかけにしてもらうこと。「外見を変えることで自信を持ってもらおう」と思い、活動しています。

 

お客さまとの接点は、ひきこもりの方たちを支援している団体から。市役所に行き、紹介してもらった支援団体に電話でアポイントを入れて、資料を持ってプレゼンへ行くんです。ありがたいことに、どの団体も興味を持って話を聞いてくださり、イベントの日程が決まったら支援団体の方が利用者さんに声掛けをしてくれます。そこで興味を持ってくださった方が予約を入れてくれるシステムです。

 

 

外出が困難な方たちなので、本当に当日きてくださるのかはわからず、心配に思うこともありますが、お客さまに喜んでももらえるよう、しっかり準備して万全の状態で待ちます。お店にいらっしゃったら、まずはカウンセリングをしてヘアカット。女性の場合はその後メイク、そしてファッションチェンジをしていただき、最後に希望者のみ写真撮影をしていただきます。

 

みなさん口を揃えておっしゃるのが「髪型をなんとかしたかったけど、美容室に行くのはハードルが高かった」ということ。その言葉だけでも、きっかけになれたことを感じられて充分うれしいのですが、やはり施術が進むごとに表情がどんどん明るくなっていくのが、本当にうれしいです。最後の撮影では別人のようになる方もいらっしゃいます。お客さまの表情の変化を見るたびに自分の原体験を思い出して、初心に帰ることができるんです。

 

価格を無料にしないのは理由がある。活動を長期的に続けていくために今を大切にしたい

 

 

数回のイベントを通じて、現在は恋愛講座や生活改善講座など内面へのアプローチも行うようになりました。参加者の中には実際に仕事をはじめた方もいますし、そこまでは至らなくても毎回きてくれる度にポジティブさが感じられるようになってきた方もいらっしゃいます。BLPが、外出が困難な人にとって居心地のよい居場所となることで、その人たちの社会復帰につながればこんなにうれしいことはありません。

 

今後は、スタッフを増やして、たくさんの方にきてもらえるようにしたいと思ってはいるのですが、無理に活動を広げようとは思っていません。先日、BLPの活動をより加速していくためにクラウドファンディングを行ったのですが、準備不足でうまくいきませんでした。そこで気づいたのは焦ってやるよりも地道にコツコツ続けることが大事ということ。そうすれば無理にいろんな人を巻き込まずとも、段々と知られていくようになるのではないかと考えています。

 

料金は、カット、ファッションスタイリング、メイク、希望者には撮影も行い、すべて込みで3,000円。「お金を支払う」という行為を通じて社会と接点を持ってもらうために有料でサービスを提供しています。営利目的ではありませんが、活動を続けていくためにはお金も必要なので、助成金についても検討しています。

 

全国にはまだまだたくさん苦しんでいる方がいます。この活動を続けていくことで、そういった方たちの気持ちを変えるきっかけになればうれしいです。

 

 

プロフィール
AVENIR我孫子店
スタイリスト/吉澤智洋(よしざわともひろ)

1989年生まれ。東京都出身。山野美容専門学校を卒業後AVENIR入社。「ビューティフルライフプロジェクト」のほか訪問美容も行うなど、社会貢献に積極的に取り組む。

 

(取材・文/橘川麻実 撮影/河合信幸)

 

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