元ひきこもりの美容師の挑戦。「いらっしゃいませ」も言えなかった青年が、自身の原体験を胸にお客さまを救う―ビューティフルライフプロジェクト吉澤智洋さん

 

「訪問美容」や「ヘアドネーション」など、美容室や美容師の社会課題への取り組みが広がっています。今回ご紹介するのは、ひきこもりの方の支援を目的とし、「外見をおしゃれに変えれば自信がつき、外へ踏み出す一歩になる」という信念のもと、ヘアカット、服装チェンジ、写真撮影などを提供する「ビューティフルライフプロジェクト(以下BLP)」。立ち上げたのは、AVENIR我孫子店のスタイリスト、吉澤智洋(よしざわともひろ)さんです。

 

美容室での原体験から「ひきこもりの方の力になりたい」と思ったという吉澤さん。プロジェクトを立ち上げた経緯や、想いをうかがうとともに、社会課題の解決における美容の可能性に迫ります。

 


 

いじめが原因でひきこもりに。助けてくれたのは、美容の力だった

 

 

僕は、中学2年のころ、いじめが原因でひきこもり状態になってしまったんです。苦しい毎日の中で「どうして自分はいじめられるんだろう?」と悩み、「外見に原因があるんじゃないか」という考えにいたりました。それまでは親と一緒に床屋さんに行っていて、スポーツ刈りのような、あまり自分には似合っていない髪型にされていたんです。周りも美容室に行きはじめた年ごろでしたし、美容室ならもう少しかっこいい髪型になれるんじゃないか、何かが変わるんじゃないかと思いはじめました。

 

実際に美容室へ行くまでに、1ヵ月以上悩みました。そして、勇気を振り絞って近所の美容室へ行ったものの、当時の僕は言葉を発するのもままならない状態。聞かれたことにうなずくか、首を振るかぐらいでしか意思表示ができませんでした。しかし、そんな自分に対して、担当してくれた30代ぐらいの男性美容師さんは、とても丁寧にカウンセリングをしてくれたんです。そしてシャンプーやカットがはじまり、鏡の前で徐々に変わっていく自分を目の当たりにすると、言いようのない感動がありました。完成したヘアは我ながら「ちょっとかっこいいんじゃないか」と思ってしまうほど見違えていて、自分に自信を取り戻せた瞬間でした。

 

それまでは遠くで誰かが笑っていると「自分のことを笑っているのではないか」と思ってしまっていたんです。しかし、髪型が変わって自信がついたことでそういう感情から解放されました。ファッションにも興味を持つようになり、「おしゃれになった」と周りの評価もどんどん変わっていきました。

 

髪型が変わったことで、自然といじめもなくなったんです。

 

ただ、当時は自分が美容師になるなんて思っていませんでした。美容師への憧れはあったものの、普通に大学に行って就職するような未来を想像していました。きっかけは、肝心の大学受験に失敗してしまい、半年ほどフリーターをしていたとき。改めて「自分が本当にやりたいことはなんだろう?」と真剣に考える中で、あの美容室での体験がよみがえってきました。「向いていないかもしれない」と思ったのですが、「失うものはないんだから美容師を目指してみよう!」と、その年の秋から美容専門学校の夜間クラスに通いはじめたんです。

 

>サロンワークでは、苦労の日々。お客さまに挨拶することすら恥ずかしかった。

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