誰もやらないなら僕がやる! 元Amazon事業部長が 世界に一つのカセットテープ専門店オーナーになったわけ

カセットテープは「新しい音楽体験」ができるアナログメディア

 

 

Amazonで忙しい毎日を過ごしていましたが、その間もずっとレコードやカセットテープなどのアナログメディアを収集していました。当時の同僚や友人たちも、僕がコレクターという裏の顔を持っていることを知らなかったので、カセットテープ専門店をはじめたことをインタビューなどで読んで知って仰天したようです。

 

しかも、Amazonのキャリアを捨てての挑戦ですから、もし誰かに「カセットテープ専門店をやる」と話しても理解されなかったと思います。けれど僕は会社に勤めている限り、他人に自分の人生を決められているような感覚から逃れられないと感じたのです。自分の好きなことを追求し、それをカタチにしていくなら、自分の頭が元気なうちがいい。40代半ばはラストチャンスかもしれないと思ってカセットテープ専門店をつくることにしました。

 

 

なぜカセットテープ専門店なのか。カセットテープのコレクターは世界中にいますし、レコードやCDと一緒にカセットテープを置いている店もあります。しかしながら、世界のどこを見渡しても、カセットテープ専門店はなかったからです。アナログメディアのカセットテープ専門店をつくったら面白いことが起こるんじゃないか…そんな構想をずっと温めていたんですよ。

 

カセットテープは古いメディアですが、実は新しい音楽体験ができるメディアでもあります。もともとカセットテープは安価で、レンタルCDをダビングするのに使うなど、庶民の味方のメディアでした。なので、7万とか8万とかするような高価なカセットデッキを、持っている人も少なかったと思います。だからこそ、うちの店に置いてあるような当時の高級カセットデッキで、ダビングではなくプロの楽曲がそのまま収録された高音質のカセットテープを流すと、みなさんが想像しているよりパンチのある音を楽しむことができます。

 

カセットテープはアーティストにも人気です。なぜなら、曲の順番まで含めてこだわってつくったアルバムを、最初から順番通りに聞いてもらえるから。これはスキップやシャッフルができないアナログメディアならではの魅力です。だから、デジタル音源しか触れたことがない人からすると、カセットテープで音楽を体験するのはとても新鮮なはずなんですよ。

 

髪を切るときのオーダーは「伸びた分だけ切ってください」

 

 

お客さまのなかには美容室で働く人も多く、ほかの美容室と違う雰囲気を出すためにカセットテープの音楽を流しているところもあります。僕が通っている美容室は、予約なしでふらっと行ってささっとカットしてくれるような庶民的なお店。料金も2000円ほどで、リーズナブルです。店内のBGMでは、ラジオFM放送が流れています。客層が幅広いのでそれもありかな、と思います。

 

昔は予約優先の美容室で髪を切っていたこともありますが、「お仕事何しているんですか?」と同じ人に何回も聞かれたり、時間がないのにもかかわらず1回のカットで3時間かかったりするようなことがあって、少し苦手な場所になってしまいました。今通っている美容室は、毎回担当の方も違うし、カットのみで短時間なので、こっちのほうが僕にはあっていると思います。

 

 

オーダーするときは「伸びた分だけ切ってください」くらいしかいいません。オーソドックスな髪型をずっと続けています。というのも僕は、外見で主張したくないんです。仮に僕が奇抜な見た目やキャラクターだと、それがお店の色になってしまう。それは避けたいので、できるだけ目立たない方がいいんです。美容室との付き合い方は、きっと人それぞれ。僕みたいな距離感がいいっていう人も、いるんじゃないかなって思います。

 

♦♦♦美容師への応援メッセージ♦♦♦

僕の店にとってBGMを流すことは、血液を循環させることと同じくらい重要なことです。なので出かけた先の空間に流れるBGMが気になってしまいます。音楽はその空間を支配します。ダサい音楽をかけると、その空間までダサくなってしまいます。たとえば、おしゃれな立ち飲みビストロやイタリアンで、J-POPが流れていたらお店の雰囲気に合わないし、お酒や料理の味が変わってしまうと思うんですよね。J-POPが悪いのではなく、空間に合わないのです。ぜひ、美容室という空間にどんな音楽があうのか、じっくり選んでいただきたいと思います。

 

 

プロフィール
waltzオーナー
角田 太郎(つのだ たろう)

東京都出身、目黒区生まれ目黒区育ち。大学卒業後、大手企業の内定を辞退し、レコード・CDショップWAVEに就職。4年で退職後、1社を経て2001年にアマゾンジャパン合同会社に転職。CD・DVD販売事業の立ち上げで貢献後、書籍や消費財部門の事業部長、新規開発事業部長などを歴任。2015年3月に退社し、8月に中目黒にカセットテープ専門店waltzをオープン。現在は中古レコードや書籍も取り扱う。販売のほか、店舗やイベント等でBGMを選曲することも。2017年12月にはGucciがインスパイアされたスポットを紹介する「Gucci Places」に選ばれた。

 

( 取材・文/外山 武史  撮影/菊池 麻美)

 

  “I LOVEサロン”バックナンバーを見る >>

 

  ライフマガジンの記事をもっと見る >>

Related Contents 関連コンテンツ

Guidance 転職ガイド

Ranking ランキング