U-REALM高木裕介さん。ヘアライター佐藤友美がみた”美容師列伝” 第9回「格好をつける人」

「続ける」のではなく「生き残る」こと

 

私が高木君のことを尊敬する理由はたくさんあるけれど、一番すごいと思うのは、高木君は誰よりも自分自身に、一番厳しい評価をするところ。

高木君は20代の頭からずっとトップランナーでい続けてきた人だけれど、これだけ登りつめても、まったく満足していなくて、自分なんてまだまだだと「ほんとうに」思っているみたいです。

 

ある日、高木君と西麻布でご飯を食べたときのこと。

そこで知り合いに会った高木君は、その方のお友達に「この人、高木さん。めっちゃ有名な美容師」と、紹介されていました。

 

そのときはにこやかに挨拶していた高木君だったけれど、奥の席に着いた瞬間、私にこう言いました。

「めっちゃ有名な人って紹介されている時点で、まったく有名じゃないですよね。本当の有名な人って、紹介なんか不要ですよね」って。

 

国民的タレントや俳優さんたちといつも仕事をしている高木君らしい言葉だと思った。いつだって、高木君が見ているステージは、ずっとずっと高いところにあるんだなって。

 

「いや、あのステージって、ちょっと別世界ですから」とか

「いやいや、あなたも十分すごいじゃないですか」とか

そういう言葉に全然ごまかされない。他の人が高木君をどれだけ褒めても、自分が自分を褒められなければ、納得しない人。

 

高木君はいつも、私たちの目には見えない「ものさし」を手にして毎日を生きている。私はそんなふうに感じます。

それは、人と自分の差をはかっているのではなく、「理想の自分」と、「今の自分」の間の距離を測って、いかにその距離を埋めようかと考えて生きている、そんなふうに感じます。

その生き方は、私には想像しかできないけれど、多分、結構苦しいものなんだと思う。

 

30歳過ぎたら、自分の底なんてだいたい見えてくる、よね。

この先、自分が手を伸ばして届く場所、届かない場所がぼんやり見えてきて、そこに手が届かない自分を認めるのが悔しいから、多くの人は「いや、私、最初からあんな場所目指してなかったんですよね」という顔をする。夢なんか、最初からなかったようなふりをする。

 

でも高木君は、そこに到達しないことに、ちゃんと傷つき、ちゃんと反省して、ちゃんと対策を練る。その生き方が苦しくないわけはないだろう。高木君はちゃんと格好をつけるから、その裏側の努力を見せないけれど。

 

高木君とは、年末に呑むことが多いのだけれど、そのとき彼は口癖のようにこう言います。

「今年も、お互い生き残れましたねー。10年後もこうやって一緒に美味しいお酒、呑みたいですね」って。

 

その言葉を聞くたびに思います。

高木君にとって、美容は「続ける」なんて生やさしいものじゃなくて「生き残る」ものなんだなって。

トップステージで生き残れないくらいなら、潔く討ち死にする気なんだろうなという覚悟を毎年感じます。

 

私もこの美容業界で「ちゃんと生き残らなきゃ」と思うその理由の半分くらいは、10年後も高木君と美味しいお酒を呑みたいと思うことにあります。

出会えてよかったです。ありがとう。

 

 

-Profile-

格好をつける人/U-REALM 高木裕介

 

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U-REALM代表。北海道出身。山野美容専門学校卒業後、原宿サロンを経て、afloatオープニングスタッフとして参加。2002年10月、afloat-fがオープン。同時に店長に抜擢される。 2005年4月、独立。サロンワークはもちろんのこと、ファッション誌の表紙やTV,CMなどのヘアメイクを担当し タレントやモデル、さらにはスポーツ選手やメジャーリーガーなども顧客として通う。現在8店舗を展開。

 

文・佐藤友美

 

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美容サイトの草分け的存在「サンドリヨン」の編集長を経て、雑誌、書籍での執筆を重ねる。15年間にわたってヘア専門のライターとして活動し、全国各地でセミナー、講演を行う。著書に「フォトシュートレッスン」(髪書房)「美容師が知っておきたい50の数字」「美容師が知っておきたい54の真実」(女性モード社)など。書籍「女の運命は髪で変わる」(サンマーク出版)から発売中。

 

 

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