カリスマ美容師の先駆者artifata CHIKAさんのびよう道〜“頂点”を追い続けた先で気づいた、大切なもの〜

美容室でも待遇や休日が大切と言われる時代です。もちろんそれも良いですが、美容人生のどこかで“心も体も美容でいっぱい”という時期があっても良いかもしれません。
「びよう道(みち)」は、そんな地道で壮大な鍛錬の道を歩んできた“美容の哲人”に、修業時代に一人前になったと思った瞬間や美容の哲学など、それぞれの美容の道を語っていただく連載企画です。
今回は、カリスマ美容師ブームを牽引し、30年以上にわたって美容業界の第一線を走り続けてきたartifata(アルティファータ)のCHIKA(チカ)さんが登場。カンヌ国際映画祭やアカデミー賞など、海外の舞台でも活躍し、数々のセレブリティのヘアメイクも手がけてきました。日本のみならず世界を飛び回り、着実なキャリアを築いてきたCHIKAさんが語る、「びよう道」とは。
「誰にも負けない毎日を過ごす」と決めたアシスタント時代

アシスタント時代は、誰よりも早くサロンに入り、誰よりも遅くまで残って練習する――そんな日々を過ごしていました。とにかく負けず嫌いで、同期には絶対に負けたくなかったんです。ただ、アシスタントの段階では、技術で勝っているのか負けているのかは正直よくわからない。だからこそ、「行動量だけは誰にも負けない」と決めていました。
僕の美容師人生は、当時の有名サロンHAIR DIMENTIONからスタートしました。と言っても、有名サロンだと知ったのは入社してから。美容学校の先生にすすめられるがまま入ったので、あまりサロンの状況をわかってなかったんですよね。いざ入社してみると、スタッフは男性ばかりで、勢いのある先輩が大勢いて、自分と同じように野心のある同期が11人。とにかく周りには競争相手しかいないというような環境でした。そんな中で考えていたのは、「どう戦って、どう勝つか」ということばかり。将来どんな美容師になりたいかを描く余裕はなく、あの頃は、とにかく“誰にも負けない毎日”を過ごす。それだけで精一杯でした。

自分の性格をよく理解していた先生が紹介してくれただけあって、HAIR DIMENTIONの環境は自分に合っていたんだと思います。朝も晩も練習した成果が出て、2年半でデビュー。同期の中で一番早かったです。デビュー後も、売上100万円までは順調でしたね。今のようにSNSのない時代なので、ひたすら足を使ってお客さまを増やしました。一般企業のお昼休みにお邪魔して、名刺を配り回ったりして。
5年間の挫折を超えて、トップ美容師の仲間入り

ただ、そこから売上200万円に到達するまでの道のりは、決して順調ではありませんでした。売上を伸ばそうと、取り憑かれたように練習を重ね、雑誌を読み漁り、できる限りの努力をしても、なかなか結果には結びつかない。そんな日々が続きました。
気づけば後輩にも抜かれ、悔しさを抱えたまま過ごす時間は5〜6年に及びました。正直なところ、美容師を辞めようと思ったことも、一度や二度ではありません。
転機になったのは、「視点を変える」という選択でした。それまでは、うまくいかない理由を埋めるように、周囲のやり方を真似することで“正解”を探していました。「あの先輩のようなカウンセリングをそのままやったら、お客さんが来るかな」、「あの人みたいなファッションをしたら、もう少し注目されるのかな」。成功している人に自分を近づけることで、自分も同じように結果が出るはずだと考えていたんです。
もちろん、それでうまくいく人もいると思います。でも、少なくとも自分には当てはまりませんでした。だからこそ、思い切って振り切ることにしたんです。人に合わせるのではなく、「自分がどうしたいか」に従う。トレンドに左右されず、自分が本当に“かわいい”と思えるもの、そしてお客さま一人ひとりに本当に似合うものを追求していこうと決めました。
その決断が正しいのかどうか、当時はわかりませんでした。でも、不思議と気持ちはすっと軽くなった。そしてそのタイミングから、少しずつではありますが、売上も伸び始めていったんです。

そこから、売上500万円に到達するまではあっという間でした。出版社にポートフォリオを持ち込んだことで、雑誌の仕事が増えていきました。それに加えて、お客さまの口コミも広がり、仕事は一気に加速していきます。
同時に、自分があまり売れていない時代から続けていたアーティストや女優のヘアメイクの仕事も増えました。さらに時代はカリスマ美容師ブームの真っ只中。1日40〜50人のお客さまを担当しながら、合間を縫ってヘアメイクの現場へ向かい、雑誌のヘアページの依頼をこなしながら、「シザーズリーグ」などのTVにも出演。まさに怒涛の日々でした。振り返れば、1年間でまともに休んだのは、わずか2日ほど。それほどまでに、仕事に没頭していました。
その間に独立し、artifataをオープン。サロン経営も順調で、周囲から見れば順風満帆な日々だったと思います。ただ、自分の中ではどこか満たされていませんでした。「もっと上に行きたい」「もっとすごい世界があるはずだ」――そんな思いが、ずっと消えなかったんです。もともと、自分の知らない世界を知りたいという好奇心や、より良いものをこの手で生み出したいという創作意欲、そして強い闘争心がある性格なんですよね。
だからこそ、ピークの忙しさを乗り越え、少しだけ時間に余裕が生まれたタイミングで、「今しかない」と思ったんです。次に目指したのは、海外でした。