名門サロン出身の”訪問美容師”――金澤真由美。代官山で築く「生涯顧客」と、誰もが笑顔になる唯一無二のサロンづくり

代官山駅から徒歩3分。静かな路地に佇む『BY THE SALON(バイ・ザ・サロン)』は、知る人ぞ知る隠れ家的ヘアサロン。ここでオーナープレイヤーとして活躍するのが、“訪問美容師”としても活動する金澤真由美(かなざわまゆみ)さんです。名門サロンPEEK-A-BOOで、10年にわたりヘアショーや講師活動など華やかな舞台でキャリアを積んできた金澤さんは、30歳を節目に大胆な転身を遂げました。退社後は3年間、訪問介護の現場で経験を重ね、2016年に高齢者や車椅子の方も安心して通えるサロン『BY THE SALON』を創業。前職の先輩と共に始めたサロンは人気を集め、2020年には中目黒に2店舗目をオープン。そんな金澤さんに、これまでの歩みと訪問美容への想い、そして“生涯顧客”を大切にするサロン運営について伺いました。
きっかけは祖父の最期。原点を見つめ直し、飛び込んだ新しい職場
――訪問美容を志したきっかけを教えてください。
きっかけは、29歳のときに祖父が他界したことでした。いつも身なりをきちんと整えていた祖父でしたが、最期に会ったとき、髪が伸びて印象がすっかり変わっていて…。
当時の私は仕事が多忙を極めており、お見舞いにもなかなか行けなかったんです。「私は美容師なのに、身内の髪さえ整えてあげられなかった」という後悔が押し寄せました。最期に祖父を少しでもきれいにして送り出したいと思い、髪を整えたら家族がとても喜んでくれて。その時、“美容室に行けなくても美容を必要としている人がいる”こと、そしてそれが本人だけでなく、家族の喜びにもつながることを実感したんです。

――華やかなキャリアを積んでいた時期に、福祉の世界へ。これは大きな決断でしたね。
そうですね。25歳でスタイリストデビューしてから、4〜5年は海外のヘアショーや雑誌撮影、セミナー活動など、やりがいのある仕事をたくさんいただいていました。それでも「訪問美容をやってみたい」という気持ちは消えず、1年ほど自分の心と向き合った結果、30歳で退社を決意しました。

――介護業界に知り合いはいたのですか?
全くいませんでした。まずは介護業界のニーズを探りたいと考えて、面貸しでサロンワークを続けながら、ヘルパーの資格を取得。週3日、午前中だけ訪問介護の現場でアルバイトとして働きました。食事や入浴の介助、買い物代行、排泄介助まで、現場のすべてを経験しました。実際に働いて初めてわかることばかりで、本当に勉強になりましたね。高齢者の方は、体勢を少し変えるだけで骨折してしまうこともありますし、「痛い」と伝えられない方もいます。突然倒れることもあり、そうした予期せぬ状況にどう対応するかを学べたことは大きな糧になりました。
