人気サロンのトップに聞く、円満退社の心得! 独立する美容師にありがちな問題点とは?

20年間築いてきた信頼関係があったからこそ独立できた−Gratii大更章文さん

 

 

退社したのは、2015年の1月31日で、独立の意思を伝えたのは、2014年の1月です。意思が固まったので早めに伝えたほうがいいと思ったのと、1月は1年のスタートということもあり、その1年の方向性をオーナーが決定する時期なので、「その1年の間に自分がいなくなるかもしれない」ことを、オーナーが経営する上で、知っておく必要があると考え、切り出しました。

 

金井(前サロンRITZオーナー)に「自分のブランドでどこまでやれるのか挑戦したい」という思いと、「現状に満足せず次のステップに行きたい」という気持ちを伝えると、同意してくれました。しかし、自分の店を持つことは簡単なことではありません。最初に伝えたときは、独立するならやり方をもう少し考えてみたら、と諭されました。

 

納得してもらうために、3ヵ月の間、自ら時間を作ってもらい話し合いを重ねました。最終的には、20年という長い期間築いてきた信頼関係もあり、独立を受け止めてくださったんです。もしかすると「これ以上引き止めても伝わらない」という諦めがあったのかもしれません。しかし、退社が決まってからもよく「その後独立の準備はどう?」などと声をかけてくれ、心配もしてくれていました。僕が40歳になる時期だったので、金井自身、「何かアクションを起こさないとな」と考え、僕の今後について聞こうと思ってくれていたタイミングだったみたいです。

 

会社やスタッフ、そしてお客さまに何が迷惑になるのか考える

 

辞めるまでの期間で大切にしていたのは、自分ができる範囲でスタッフの教育に力を入れ、自分がやってきたことを後輩につなげること。また他のスタッフが、僕の独立を知ったことで、後に続くような流れを作りたくなかったので、辞める直前までスタッフには独立することを言わないようにしていました。誰かが辞めたときって、どうしてもそれに続く空気が流れてしまうと思うんです。特に店のトップが辞めるとなると、負の連鎖が伝染してしまう。サロンに迷惑をかけないよう、退社の1ヵ月前である、2014年末に伝えました。

 

逆に、絶対にやらないと決めていたのは、同じエリア内での出店とスタッフを連れて行くこと、そしてスタッフにネガティブな発言をすることです。

 

まず、同じエリアでの出店と引き抜きは「挑戦したい」という自分の独立の目的と逸れることになると思ったので、絶対にやらないと決めていました。

 

また、辞めることをスタッフに共有してからは、「独立したほうがいい」とか、会社のことをマイナスに捉えられる可能性のある発言や言い回しをしないようにしていました。逆に「自分は会社のこの部分をすごくいいと思っているから、独立した後もこうしていきたい」など、前向きな発言を意識しました。そもそも会社に不満があって辞めるわけではなかったので、悪く言うことはなかったのですが、店に居続けるスタッフからしたら、どんな些細な行動でも「辞めて行くから関係ない」といった態度に見える可能性があると思い、発言には注意していました。

 

お客さまに対して気をつけたのは、辞めることを伝えるときの方法。お客さまの個人情報の取り扱いには細心の注意を払い、丁寧にご案内することに留意しました。お伝えする際は大きな声では言わず、帰り際にそっと「独立することになりまして」と伝え、「ご案内させていただきたいので、それに対する同意書をRITZのものと同封させていただきました。承諾を得た方にのみ、出店する店舗のご連絡を差し上げます」と伝えました。

 

今はSNSやブログで簡単に「辞めます」と意思表示ができます。しかし、急に美容師が辞めてしまったら、お客さまに不信感を与え、それがサロンの信用を落とすことも考えられます。逆に丁寧に案内することで、「会社側の対応がしっかりしていて、すごくいいオーナーさんですね」と、お客さまが「ついていきます」や「私は残ります」と、気持ちよく判断していただけたと思っています。

 

辞める側もサロンと対話する時間が必要。縁切りでなければ、気持ちよく次のステップにいける

 

よく友人同士で独立することがあると思うのですが、それって他のサロンからスタッフを引っ張ってくるのと同じだと思うんです。つまり、他のサロンにも迷惑をかけているということ。美容業界は横の繋がりも強いので、「他店からスタッフを引き抜いた美容師がつくった店」というレッテルを貼られ、業界内で評判が下がるかもしれません。また、友人がいたサロンのオーナーが、実際には引き抜きだったと知れば、「ああ、あのサロンは、うちのスタッフを引き抜いたところだな…」と、いい気持ちはしないと思います。

 

やっぱり、独立するときに「こっちにきなよ」って安易に引き抜いてしまうのはよくないと思うんですよね。

 

また、納得できない形での独立やけんか別れするケースもよく聞きます。僕の場合は、金井の理解があったことが大きいですが、育ててもらったサロンのオーナーに納得してもらうまで、対話する時間を持つことが必要なのかもしれません。

 

僕は今でも金井と飲みに行ったり、いろいろなアドバイスをもらったり、とてもいい関係を築かせてもらっています。前のサロンの人たちやオーナーとの関係が途切れることなく、現在も教育や指導、経営の相談ができる人がいることは、とても大切なことだと思っています。

 

 

プロフィール
Gratii
オーナー/大更章文 (おおふけ あきふみ) 

カリスマブームの火付け役となった『シザーズリーグ』(フジテレビ系)に23歳の若さで出場し、一躍人気スタイリストに。その後も、有名店RITZで店長や新店舗立ち上げなどの要職を経験。2015年3月13日、青山に「Gratii」をオープンさせる。

 

>「お互いが人として恥ずかしいことをしないことが大切」Lily柳本剛さんの独立の心得

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