店を畳んで単身ロシアへ! 42歳で飛び込んだ美容師の挑戦 ― ロシア初の日系美容室「Kirameki Moscow」宮里俊介さん

 

2019年7月モスクワにオープンし、2020年1月末からモスクワ内のシェアサロンに移転したロシア初の日系美容室「Kirameki Moscow(キラメキモスクワ)」。現地で施術をする美容師・宮里俊介(みやさとしゅんすけ)さんは、現在42歳です。それまで地元・鹿児島でオーナースタイリストとして活躍していましたが、思い切ってサロンを閉じ、単身ロシアへ。

 

日本で暮らす我々にとって決して身近とはいえないロシアで、なぜ美容師として活動することにしたのでしょうか。オープンから現在にいたるまでの苦労や日本とロシアの美容の違い、そして半年を通して見えてきた現地の美容ニーズや今後の展望を伺いました。

 


 

ちょっとした休暇で行ったつもりが…。愛されたサロンを畳み、ロシアでの挑戦を決意!

 

 

美容師歴は23年、鹿児島の美容専門学校を卒業して神戸の老舗サロンで11年働いたのちに、地元鹿児島で自分の店をオープンしました。セット台2面で美容師は僕一人、地元に根ざしたサロンでお客さまにも恵まれ、現状にも満足していました。

 

あるときFacebookを眺めていたら、知人の美容師がシェアしている投稿が目にとまったんです。それが「ロシアの首都・モスクワで、はじめて日本人による日本の美容室を開業するので、興味のある人はカットイベントにきませんか?」というものでした。「へぇ、おもしろいことをはじめる人がいるんだな」と思い、なんとなくコメントを投稿したところ、主催の方から「一度、見にくるだけでも」とお声がかかったんです。せっかくなので、ちょっとした休暇のつもりで行ってみることにしました。

 

それまでもロンドンのサスーンアカデミーに参加したり、各国のボランティアに参加したりと海外経験はありましたが、ロシアは未体験。世代としてもソ連の崩壊を目の当たりにしていたので、「寒い」とか、「なんとなく薄暗い」といったイメージを持っていました。実は、それまで旅行などで一般の人が簡単に入国できることも知らなかったんです。でも、行ってみると街はキレイだし、すれ違う人は美男美女だし、治安もよくて、思っていたイメージとは180度違い、驚きました。

 

 

このカットイベントの際に、現地スタッフにならないかとお誘いを受けました。しかし日本に自分のサロンもあるし、そのときの僕にとっては現実的ではなく、一度は断りました。

 

ところが、自分の店に戻ってからお客さまにその話をすると「楽しそう」「それはチャンスだ」「せっかくだからやってみれば」というような反応がほとんどだったんです。「あれ?もしかして自分は必要とされていない…?」なんて逆に心配になっちゃうぐらいで(笑)。

 

そういう意見を聞いているうちに、だんだんと気持ちが変わってきました。個人サロンなので従業員に迷惑をかけることもないし、年齢的にも40代に入り、何か大きなチャレンジができるのはラストだと思いました。

 

悩みもしましたが、万が一ロシアで失敗しても、日本に戻ってくればすぐに美容師として働くことは可能ですし、この仕事って技術があればどこの国でもできるじゃないですか。そう考えたら失うものはひとつもないなと、思い切ってロシア行きを決断しました。

 

参入障壁の高いロシアで、日本の美容師は待望されていた

 

現地のお客さま(中央)、宮里さん(左)、オーナーの廣瀬さん(右)

 

ロシアで日系の美容室を開こうとしていたのは、現地で日本語学校とカラオケ付き和食店を6年間運営してきた廣瀬です。彼自身、ロシアでの生活の中で、日本のサロンのように丁寧に、そして自分好みにカットしてもらえるサロンがほしいと思っていたし、周囲の在留邦人からも同様の声を聞いていたそうです。

 

どこの国でもあるとは思うのですが、現地の美容室の文化や技術が自分の好みと合わず、美容室に困る人は少なくありません。それでも、ロシアにはこれまで日系のサロンはありませんでした。理由は、参入障壁の高さです。

 

まず、ロシアの在留邦人は首都であるモスクワでも約1,500人と、多くはありません。さらに、行政手続きがややこしく、文化や価値観の違いから現地のスタッフのマネジメントも難しい。例えば、何かを依頼するときも「これだけやってくれたら、これだけあなたの評価を上げる」のように、相手にとってプラスになることを伝えなければなかなか動いてもらえません。実際、大手の飲食店が一度ロシアに進出した後、1年あまりで撤退を余儀なくされた事例もあります。それぐらい、日本のビジネスのやり方とは勝手が違う国なんです。

 

しかし廣瀬は、ロシアでビジネスを6年間続けきた中でノウハウを身につけ、人脈も広げてきました。また、約1,500人と決して大きくはない市場でも、他の日系美容室が参入しないのであれば、1つのサロンにとっては十分な人数です。「Kirameki Moscow」を開いたのは、そんな廣瀬の環境や条件と現地のニーズが整ったタイミングだったからだそうです。

 

私自身もロシアへ渡る前に、廣瀬から「現地の在留邦人にとって日本人の美容師は待望だ」と聞いていました。だから、とても士気高く、現地の人の期待に応えたいと胸を高ならせて、オープン直前の7月にモスクワへ入りました。

 

>事前予約も入っていたのに…ロシアに到着して驚いたこととは?

 

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