「スタッフに理想を押しつけてはいけない」。独立後感じたプレイングオーナーの苦悩 ―10年サロン「S.HAIR SALON」のブランディングストーリー前編

2003年〜2005年 好調スタート期

1年間の放浪を経て。内装も音楽もこだわって作り上げた「理想の美容室」

 

 

もともと、自分の店を持ちたいという願望はなかったんです。以前所属していた規模の大きな美容室でやるのも楽しかったですし。ただ、独立前はいろいろなことが重なって、日本でこのまま続けるか、海外に移住するか迷った時期があり、1年間仕事をやめて、世界中を放浪していました。

 

独立を決めたのは、「小さくてもいいから、自分がかっこいいと思えるお店を作ろう」と思ったことがきっかけ。さまざまな土地を旅していろんなものを目にしていると、だんだん自分の好きなものがわかるようになってきます。そのうちに「こんな美容室で働きたい」という理想の美容室のイメージができてきたので、「だったら、自分でやればいいんじゃないか」と思うようになったんです。

 

コンセプトが明確にあったわけではありません。目指したのは「自分が行きたい」と思えて「こんな美容室に通っている人はかっこいいな」と思える美容室でした。当時の美容室はすべてが新しくて、隅々まで光で照らされているような、ぴかぴかした敷居の高そうなお店が主流でした。でも僕は、その雰囲気がちょっと苦手だったんです。古いものも大切にしながら、その場所だからこそ出せる雰囲気のお店にできないかと考えていました。

 

世界を放浪する中で、いろいろな場所を見たことも店づくりに影響しています。例えば、バルセロナの友人の部屋。彼は三角形をした古い屋根裏部屋の半分に住んでいました。天井の高さが片側は10メートル近くあるのに、もう片側は30センチしかないような造りで(笑)。だけど彼はその場所をすごく居心地のいい空間に作り上げていたんです。そんな経験もあり「自分が美容室を作るなら居心地のいいお店がいい」と思い、内装や音楽などすべてこだわって作り上げていきました。おかげで物件探しは難航しました。物件を探しながら、ふらっとまた海外に行ったりもしていたので、時間もかかったんです(笑)。最終的に決めたのは、外苑前。窓からイチョウ並木が見下ろせて、四季がわかって風通しのいい雰囲気が当時の気分に合っていたんです。

 

 

根拠はないけど自信はあった。オープン直後から好調なスタートを切る

 

 

開業する上で、不安はまったくありませんでした。それまでバリバリ働いていたし、3年くらいは海外を放浪したり、仕事がうまくいかなくても生活できるくらいの貯金はしていました。加えて、根拠はないけど「どこではじめても1年くらいあれば生活できるようにはなるだろう」という自信もありました。

 

とはいえ、その貯金も開業資金として使い、当時は結婚して子どもが生まれるタイミングでもあったので、奥さんとは話し合いましたけどね。

 

オープンしたのは2003年で、スタッフは3人でスタート。スタイリストが僕を含め2人、アシスタントが1人です。連絡先がわかるお客さまや、近しい人にしかオープンの連絡をしませんでした。スタイリストの人数が少ないので、最初はたくさんお客さまがいらっしゃらなくても、集客としては十分だろうと思っていたんです。けれど、お陰さまですぐにスタッフを増やさないと回らなくなるほど忙しくなりました。

 

最初から忙しく営業できたのは、もともと編集者やライターのお客さまが多かったことも理由の一つ。『S.HAIR SALON』のような雰囲気のお店は当時は珍しかったこともあり、メディアで取り上げてもらえたんです。そうしているうちに、連絡できていなかった昔のお客さまも雑誌を見てきてくれて。すぐにスタッフを増やし、そこからしばらくは6〜7人体制で営業しました。

 

 

>事務作業に追われ、「やめときゃよかったかも?」と思った独立初期

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