こだわりを手放した先に成功があった。顔まわりカットで顧客に寄り添う、ABBEY 遠藤陸人さん #Z世代のスター発掘
副社長から言われた「あれじゃ売れない」

ハイトーンを上げていた頃は、投稿も売上も全くと言っていいほど伸びませんでした。せっかく東京に出してくれた親に恩返ししたい、早く立派になりたいという思いと現実の差に焦り、結果を残すためにはどうすればいいのかをずっと考えていました。
転機になったのは、デビューから数カ月後。副社長の小田嶋(信人さん)が、僕の直属の先輩に「あれじゃ売れないから、変えてあげて」と言ってくれたそうなんです(苦笑)。
相談に乗ってくれた先輩に「方向性を変えてみたら?」と言われた時は、それまで磨いてきたハイトーンへのこだわりもあって正直すごく悩みました。でも、結果を残せていない自覚はあったので、思い切って打ち出しを変えることにしたんです。

当時はコロナの影響でマスクありきのスタイル作りが流行っていて、顔まわりカットという文化ができ始めたタイミング。やっている方も今ほど多くなかったし、波に乗れるのではないかと考え、顔まわりカットの研究を始めました。自分が可愛いと思った顔まわりカットをされている方のリールを画面録画して何度も見たり、直接DMで質問したこともあります。
研究した技術をサロンワークの中でお客さまに還元して、自分なりにメソッドを固めていきました。インスタも、画像に文字入れをしてお客さまのお悩みに寄り添うような投稿に切り替えて、打ち出しや見せ方を変えたことで、反応が少しずつ増えていったんです。
ただ、その頃にちょっとした事件があって。僕がお客さまの髪質を見誤ってトリートメントを少し重くしてしまって、クレームをいただいてしまったんですよ。それが、会社全体に迷惑がかかるほどの大きなクレームになってしまって…。
お客さまからは「美容師をやめてほしい」とまで言われてしまったのですが、松永が「それはさすがに…」と庇ってくれたんです。折衷案として、僕がInstagramに投稿をしないことで話がまとまりました。

実は、その頃にはすでに結婚をしていて、妻のお腹には子供がいました。大事な家族を養っていかなければならないのにまだ売上もあまりなく、集客ツールであるSNSも使えない。お店に迷惑をかけてしまった申し訳なさもありましたし、ようやく色々なことが軌道に乗る兆しがあった中での出来事で、目の前が真っ暗になりましたね。
あまり心が折れることはないタイプですが、あの時ばかりは挫けそうになりました。それでも、ずっと寄り添ってくれた松永や、大切な家族のために立ち止まっているわけにはいかないと、なんとか自分を奮い立たせました。どうすればいいか考えて「インスタの投稿は止められたけど、TikTokならいいんじゃないか?」と思って投稿を始めたんです。正直、SNSの投稿という意味ではインスタと同じですし、グレーなところだったと思います(苦笑)。でも、あの頃は「なんとかしなければ」と本当に必死だったんですよね。
どん底まで落ちた。だからこそ這い上がれた

インスタは画像投稿をメインでやっていたので、TikTokでバズっている人のリールを真似したり、動画の作り方を一から学んで投稿を始めました。地道に続けていたら、3月にある投稿がバズったんですよ。そこで、売上も一気に上がりました。
クレームが起きてしまったのが2022年の11月で、翌月12月の売上は70万円。そこから、TikTokがバズった3月の売上は、180万円まで伸びました。正直、それまでの3カ月は記憶がないくらい苦しい期間でしたが、こうして振り返ると僕のターニングポイントはあの時だったのかもしれないと思います。
クレーム事件があったからこそTikTokや動画投稿を始めましたし、結果的にそれが集客にも繋がった。それに、会社にも松永にも温かく支えてもらって、返しきれないほどのご恩をいただきました。このご恩を返さなくてはという思いはずっと自分の中にありますし、そこでより一層ギアが上がったというか、覚悟が決まったと思います。

ほとぼりが冷めて落ち着いたタイミングで、松永にも許可をもらって少しずつインスタでも投稿を再開しました。当初、フォロワー数は2000人ほど。今ではありがたいことに5万人以上の方にフォローしていただいています。ただ、僕はフォロワー数の割には“バズった”経験が少ない方だと思います。中には1000万回再生をこえたリールもあるものの、コツコツ積み重ねてきた「ちりつもタイプ」です。
顔まわりを発信し始めた頃から続けている『お客さまの悩みに寄り添い、再現性の高いヘアを作る』というスタンスに共感してくださった方が、僕の投稿を見てくれているのかなと思います。
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リール動画を作るのは時間も手間もかかりますが、それを苦に思ったことはあまりありません。僕は、学生時代から何事もうまくこなせるタイプではなく、『努力しても報われない』経験をたくさんしてきました。
美容学生の頃は、僕だけワインディングができなくて、隣にいつも担任の先生が立っていたり。それが悔しくて、放課後に居残りで練習して、家に帰ってきて深夜2時まで練習して、次の日も朝7時に行って練習して…という日々を過ごしたこともありました。でも、その結果ワインディングができるようになれば、僕としてはOKだったんです。
SNSも同じで、結局は自分のためなので時間を使うのは僕にとって当たり前。むしろ、どんなにフォロワーが増えても満足できないし、「これでいいかな」と思う日は来ないと思います。自分の弱さを知っているからこそ、やっていないと不安なんですよね。

もともと独立にはあまり興味がなく、ずっとABBEYで働こうと思っていました。でも最近は、少しそういうことにも興味が湧いてきて。いつかABBEYのフランチャイズのような形でお店を出せたら、と考えることもあります。直近の話では、後輩の教育にも力を入れたいし、僕自身さらに売上を上げていきたい。やりたいことを挙げたらキリがありません(笑)。
ABBEYのすごいところって、年長者である代表3人が一番働いていて、一番元気でパワフルなところだと思います。あの大きい背中を見ていると、自分も頑張らなきゃと背筋が伸びますし、おこがましいのは承知の上で「いつか、ああいう存在になれたらいいな」と思うんですよ。
東京に送り出してくれた親、守るべき家族、そして大きな恩がある会社、大切なお客さま。僕のモチベーションはいつも“周りの人たち”で、そう思える環境にいられるのはすごく恵まれたことだと感じます。大切な人たちに恩を返せるように、ここからさらに技術を磨いて、成長していきたいですね。

- プロフィール
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ABBEY3/副店長
遠藤陸人
新潟県出身。国際理容美容専門学校卒業後、新卒でABBEYに入社。現在9年目。ABBEYで磨いたカット技術を活かした顔まわりカットをTikTokで発信し、一気に注目を集める。20代の女性を中心に、多くの支持を集めている。
Instagram:@endo_abbey
(文/岩木日向子 撮影/菊池麻美)
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