「美容師は髪だけじゃなく心もキレイにする仕事だ。お前は反対のことをしている」

上京後に働いたサロンでは、衝撃的な光景が広がっていました。お客さまがたくさんいて、とんでもなく忙しいのはもちろん、みんな一生懸命に朝から深夜まで集中を切らさずにお客さまと向き合い、練習もこなしている。しかも、みんな熱心だから、感情を表に出して働いているんですよね。

ダメだと感じたことは、ランク関係なくガンガン言って議論したりする。困っている人がいたらみんなで助けるし、うれしいことも分かち合う。「みんな感情の起伏が激しいなぁ」って思って見ていました。誰もが美容に対して熱くなっている環境に身を置くことができたから、自分も成長できたのだと思います。

もちろんサロン全体のレベルが高く、自分より手先が器用な人ばかりだし、一生懸命やっても、なかなか仕事を評価してもらえませんでした。自分にできるのは「誰よりも練習すること」や、「大きな声で挨拶をする」などの基本的なことだけ。「今自分にできること」をノートにリストアップしておき、仕事中に自分の手があくことがないようにしました。

そんなアシスタント時代、専属のスタイリストから「美容師はお客さまの髪の毛だけじゃなく心もキレイにする仕事だ。髪も失敗するし、接客もなっていないし、お前は逆のことをしている」と言われたんです。

一生懸命やっているつもりだったんですけれど技術も接客も水準に達していなかったんです。それからは、一切の妥協をせず、自分の限界まで突き詰めて、一つひとつの仕事に没頭しました。やっているつもりだった自分を追い込んで、「まだできる、まだできる…」と自分の限界と思っていた以上に練習するようになれたのは、スタイリストの言葉が胸にグサリと突き刺さって、なかなか抜けなかったからです。

朝8時よりも前にサロンに行き営業時間まで練習して、営業が終わったら終電くらいまでまた練習をする。休日もスタイリストに技術をチェックしてもらうから、休みはないようなものです。それが当たり前だったから、苦痛に思うこともありませんでした。山梨時代のように遊びたい気持ちも、どこかに行ってしまいましたね。

＞「サロンの中のことは俺らに任せて、やりたいことをやってほしい」