美容師を“国家産業”に 美容学校と美容室の新しい関係、集客プラットフォームの旧態依然、教育システムの不備、政治へのアクセス不足──年商10億円企業を作った坂口貴徳が美容室の経営を革新し、業界を変える

 

「月10万円で経営インフラを丸ごと提供し、業界全体をアップデートする」
そう語るのは、サロンCHAINON(シェノン)代表の坂口貴徳(さかぐちたかのり)さん。雇用環境の悪さや旧来の中抜き構造に切り込み、「美容師からは絶対に搾取しない」と宣言する彼の取り組みは、直営店舗はもちろんですが、いま 67 店舗が加盟する令和最強の経営支援サービス”CVC “を中心に拡大を続けています。年収 3,000 万円プレイヤーを生み出したプロダクション型経営、韓国の有名サロンJUNO HAIRの日本誘致、そして海外・AI・教育を巻き込んだ産業再構築について聞きました。

 


 

二度の解雇と婚約破棄がくれた執念 

 

 

僕が最初に勤めた美容室は、カット技術に定評がある関西の有名店。最先端のカット技術が学べると思ったものの、待っていた現実は長時間労働と薄給。そもそも僕は東京の有名店を目指していましたが、当時は給料一桁万円が当たり前。とても暮らせないので、地元の関西のサロンを選びました。でも結局、関西も変わらなかったわけです。

 

 

仕事のストレスで肺気胸を二度発症し、その結果「体の弱い美容師はいらない」とクビを宣告されました。今じゃ信じられないことなんですけど、カリスマ美容師ブームの頃はそんなものだったんです。途方に暮れ、母校の担任に相談したところ、「激務から離れて、少しゆっくりやってみては」と。その言葉に背中を押され、専門学校の大先輩が経営するサロンに転職。「ここを大きくしよう」と腹をくくり、売上を伸ばして3店舗まで拡大させました。マネジメントや教育も一任され、店舗運営のノウハウを一通り身につけられたのは大きな収穫です。

 

ところが、ここでもオーナーと衝突。美容業界の古い体質ではスタッフは幸せになれない、と私はナンバー2の立場から訴え続けました。結果、二度目の卒業を言い渡されます。二度の悔しさが、業界全体を変える原動力になったのです。そして、僕は決めました。「美容師から絶対に搾取しない世界を自分の手でつくるんだ」と。

 

「美容師はダメだ」と婚約者の両親に拒絶される

 

 

実は若いころ、七年間交際した婚約者の両親に挨拶へ行った際、「美容師は休みも給料も少ないから」と結婚が破断になった経験があります。そんな原体験も相まって、「美容師の待遇を変えたい」という思いは使命感へと変わりました。過酷な労働環境や理不尽な目には何度も遭いましたが、私は一度も「美容師をやめたい」とは思いませんでした。人をきれいにして心から喜んでもらい、人生の節目に立ち会って対価をいただける美容師は、本当に素晴らしい仕事。問題は経営のあり方と労働環境。そこを変えれば、美容師はもっと誇れる職業になる。だから本気で、美容業界を変えたいと僕は思っています。

 

 

正直に言えば、日本の美容業界はいまだに“産業”と呼べる段階に達していません。個人商店が点在し、腕のいい職人たちがそれぞれ孤立している。これだと、日雇い労働者の寄り合いのような状態です。だからこそ、僕は美容をきちんとしたビジネスとして産業化し、いずれは日本の国家産業に育てたい。さらに国内にとどまらず、グローバル市場でも戦える仕組みをつくろうと本気で考えています。

 

現状のままでは何十年経っても「育てては辞め、揉めてはまた辞め」を繰り返し、サロン数だけが無秩序に増え続けるだけで誰も豊かになれないですよね。だから、業界全体を束ねる“新しいシステム”を作る必要があると思っているんですよ。

 

>「僕は美容業界という巨大な会社の社長だ」

 

Related Contents 関連コンテンツ

Guidance 転職ガイド

Ranking ランキング