美容師を“国家産業”に 美容学校と美容室の新しい関係、集客プラットフォームの旧態依然、教育システムの不備、政治へのアクセス不足──年商10億円企業を作った坂口貴徳が美容室の経営を革新し、業界を変える
「僕は美容業界という巨大な会社の社長だ」

目指すのは自分のサロンを良くするだけではなく、業界全体を変えること。極端に言えば、「僕は美容業界という巨大な会社の社長だ」と思っています。すると、美容学校の疲弊、集客プラットフォームの旧態依然、教育システムの不備、政治へのアクセス不足――業界のあちこちに横たわる課題が事業課題として浮かび上がってくるんです。僕はそれらをすべて俯瞰し、解決に向けて動いています。
自分のサロンも順調に育っていますが、裏では “プロダクション型”の経営を通じて業界を変える挑戦を続けています。じつは昔、吉本興業に籍を置いていたことがあり、そこで「美容師はタレントと同じだ」と気づきました。ファンビジネスであり、個性を売るエンターテインメント――ビフォー/アフターで感動を提供する仕事なのに、普通の正社員制度のもとではサラリーマン化して魅力が死んでしまう。だからこそ、タレント事務所のように個性をプロデュースし、伸ばす仕組みを作りたかったのです。

新しく入ったスタッフには必ず「何が得意? 何が好き?」と尋ね、強みを生かせる舞台を用意します。そのおかげで、2019年の創業以来のハイパフォーマーは一人も辞めていません。独立する理由がないんです。だって、一般的な独立では月 200 万円も手に入りませんし、コストばかり膨らみますから。人は応援されると勝手に走り出すものです。
マレーシア出店でスタッフの夢を叶える

たとえば、ある日、思い立って「マレーシアでサロンを出す」とインスタに投稿したところ、下田鉄也(中国・上海で4年間活躍した美容師)が DM をくれたんです。「一緒にやりたい」と。東京で初めて会って話し合い、2年かけてようやく彼との約束を果たしました。表参道、青山とステップを踏んでブランド価値を高め、満を持してクアラルンプールへ。スタッフの夢を叶えるプロダクション型経営が、まさに生きた事例です。
僕の仕事は“やりたい人”の情熱をビジネスに落とし込むこと。社名に“エンターテインメント”と掲げている以上、経営者が飽きられたら終わりですから。僕がしかけたいのは、挑戦そのものを“エンターテインメント”にして、人を熱狂させる仕組みです。
たとえば下田のケース。彼は「青山で勝負したい」と言えば青山店を任せ、「マレーシアでやりたい」と言えば海外出店まで実現できる。自分では資金もリスクも背負わず、やりたいことに集中できる上、年収は4桁万円超。はるかに視野が広がるわけです。こういう環境を提示できるから、うちのハイパフォーマーは誰一人辞めていません。すでに年収3,000 万円以上のプレイヤーもいます。でも、そんなのはスタートラインに過ぎません。僕がやりたいのはもっと業界全体を押し上げることですから。