「暗くてネガティブで面倒な人だった」air木村直人さんが変わった瞬間。ヘアライター佐藤友美がみた “美容師列伝” 第2回 「見つけた人」

手術、退院、そして再び病院で

 

 突然倒れて、強制的に入院させられて、気胸だかなんだかの手術をすることになったんです。広尾病院で。

 

 多分、いろんな仕事やお客さまの予約に穴をあけたんだろうと思う。そして多分、美容師になってから初めてのまとまったオフだったんだと思う。ベッドの上で、キムはどんなことを考えたんだろうな。その気持ちを想像することはできないけれど、突然、キムはTwitterに嵐のように投稿を始めた。

 美容についていま考えていること、読んでいる本、生きることについて感じていること、病院生活の細かなこと…。

 まだTwitterをやっている美容師さんが少なかった時代。私のタイムラインは、あっという間にキムの投稿で占領された。いま振り返れば、「SNSといえば木村さん」の誕生は、この入院がきっかけだったんじゃないかと思う。

 

 手術当日、私は、キムのお見舞いにいった。

 

 病院ではご両親とやたら可愛い妹さんが、手術が終わるのを待っていました。結構長い手術で結局キムには会えなかったので、私は見舞いの代わりに持って行った「佐藤可士和のつくりかた」という本を妹さんに渡して失礼しました。手術は成功したみたいだった。成功したっぽいtweetを見た。

 

 そして、退院してからのキムは、肺と一緒に、脳みそも手術したんじゃないかというくらい、人が変わっていた。

 

 自分の考えをはっきり伝えるようになった。最初はブログやツイッターを通じて、お客さまに。それから美容業界に向かって。で、そのうち、美容業界を超えて、あらゆる業種の人たちに。

 トライ&エラーを繰り返しながら、少しずつ表現方法を変え、そしていまのスタンスを確立していった。そんなキムの、決してバタ足を見せずに変化していく姿をみながら「ああキム、自分が生きて行く場所を見つけたんだなあ。誰かと比較されない場所を見つけたんだなあ」と思ったりしました。

 

 私は雑誌の仕事でいろんな美容師さんとご一緒させていただいてきたけれど。

 

 20代で雑誌に出られる美容師になるのはすごく難しい。そして、30代で求められ続ける美容師で居続けるのは、さらに難しい。そして、40代以降、業界を牽引している美容師だと言われるのは、本当に何万人に一人の世界になっていく。そしてそこで生き残るために削られるしのぎのすさまじさを間近で見させていただいていたから。

 

 だから、思ったんです。

 

 キムは多分、その業界のトップで在り続けるための切符を、人の判断に委ねるのではなく、自分の手でもぎとったんだな、って。他の誰もが、いままでやらなかった方法で。

 

 キムのいろんな投稿は影響力があるので、そのタイムラインを毎日追っていると、キムの考えが日本の美容師さんのトレンドだと思い違いしてしまう危険性があります。それに気づいてからは、私、ぶっちゃけキムのツイートをミュートしていました(すみません)。

 なので、キムが結婚したのも、お子さんができたのも、知ったのはだいぶ後だった。

 

 先日、airのプレスさんに木村さんのインタビュー取材を申し込んだら「木村はその日程、第一子の出産のために休暇をいただいています」とお返事をいただきました。

 心のそこから、本当に、キムおめでとうと思いました。うっかり涙が出そうになったりすらした。

 自分の意思で、自分が大切だと思うものを優先し、自分の働き方をコントロールする。当たり前のように思われるかもしれないけれど5年前までは、「休んだらその間にチャンスを逃すかもしれない。干されるかもしれない」と言っていたのだから。この5年間で、幾千の社内外のハードルを越えてきたんだろうと、その道程を考えるととても敬虔な気持ちになりました。

 

 この記事の確認メールをしたとき、木村さんはまさかの病院で奥さまが「陣痛なう」でした。キムとキムの奥様のお子さんに、Welcome to the wonderful world!

 そしてキム、40歳になっても、50歳になっても、それからも。ずっと生き残っていこう。この、狭くて広くてワンダフルな東京砂漠で。

 

 (文中、木村さんの敬称を略させていただきました)

 

 

-Profile-

 

見つけた人。air/ LOVEST SN.Div.Manager 木村 直人 naoto kimura

air_木村

 

ヘアスタイルスキルにおいては語るに及ばず、常に先を走る日本のトップクリエイターの1人。
「上質、洗練」をテーマにし、グラデーションカラーに代表される様に斬新な価値観で世の中にトレンドを発信し続けてきたオールラウンドプレイヤー。
情報発信者としても高いスキルを誇り、常に精度の高い情報を提供し続けている。
主宰するオンラインサロン「マルチバース」においては開始2日で400名の会員を動員。
LINEスタンプディレクション、美容メディア構築など、美容師の仕事だけにとどまらない活動を通じて社会に対しての貢献を成している。
芸能人顧客多数、雑誌などでも目にしない事はない程にサロンでもサロン外でも精力的な活動を行っている。
【著書 ハラドキヘアスタイルブック(三栄書房)】はAmazonビューティーランキング第1位を獲得。

 

文・佐藤友美

 

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美容サイトの草分け的存在「サンドリヨン」の編集長を経て、雑誌、書籍での執筆を重ねる。15年間にわたってヘア専門のライターとして活動し、全国各地でセミナー、講演を行う。著書に「フォトシュートレッスン」(髪書房)「美容師が知っておきたい50の数字」「美容師が知っておきたい54の真実」(女性モード社)など

 

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