「スタッフに甘すぎる」と他社に言われても。一貫して「豊かさ」を考え続ける独自の英才教育システム―10年サロン「UMiTOS」のブランディングストーリー前編

2011年〜2014年 精神進展期

都内の仕事が増え、母親業との両立が大変に。青山の『UMiTOS』オープンの経緯

 

 

『海と砂原美容室』をオープンしてから1年後には、南青山の物件を探しはじめていました。産後すぐに復帰したヘアメイクの仕事で、都内には頻繁に通っていましたし、前のお店で切っていたたくさんのお客さまが都内で待っていることをわかっていたからです。

 

私、求められると応えたくなってしまうんですよね。このころは気づけばヘアメイクの仕事が週に5日も入っていて、体も産後で完全には戻っていなかったので途中の駅で貧血気味になってしまうこともありました。芸能人の人たちが南房総まできてくれることもあったけど、そうするとつい地魚の料理を出してもてなしたりして、民宿みたいになってしまったことも…(笑)。

 

そんな日々を過ごしていると「これまでは自己犠牲の精神でどこまでもやれていたけど、このままでは母親としてやるべきこともできない」と思うようになりました。そのうちに芸能人の人たちも忙しくなってきていて、「砂原さんにお願いしたいけど、南房総までは行けないからきてほしい」という声がこれまで以上に増えてきたんです。

 

そこで、都内の拠点として青山に『UMiTOS』をオープンしました。本オープンは2011年の12月。スタイリストが4人、秘書が1人、アシスタントが4人、オフィスとレセプションが1人ずつの、11人でスタートしました。

 

豊かな教育制度「共生教育」と、それを保ち続けるための秘訣

 

自然の中でゆったり過ごす時間を設けた「UMiTOS forest」

 

『UMiTOS』では、新人教育には特に力を入れました。スタイリストやアシスタントの基本的な技術は、しっかり習えばどんな人でもできると思っているので、クリームの塗り方や指の当て方といった、指先から「あ、この人上手だな」と伝わるようなテクニックを教えていました。お客さまに気持ちが伝わる対応の仕方なども、私の経験を総動員しながら教え込みましたね。

 

こうしたことはマニュアルにはまとめていなくて、実践を通じて教えています。普段から言い続けていれば浸透し、自分で考えられるようになっていくもの。先日も、車椅子のお客さまが予約されたときは15分も前からスタッフが外に出て、入り口の階段で困ることがないようにスタンバイしていました。そうやって自分から手を打てるようになっていくのを、賢い子たちだな、素晴らしいなと思いながら見守っています。

 

教育という意味では、前述した「豊かさ」も大きな要因の一つです。『海と砂原美容室』をはじめたときから今までずっと、「共生教育」という理念を掲げています。

 

具体的には、栄養士を雇い、スタッフ全員が栄養たっぷりの食事を食べられる「食育」や、プロの画家からデッサンを学ぶ「美術の時間」、1人になって自分の課題とじっくり向き合う「孤高の時間」などを行っています。「秘書制度」もこの一つですし、スタイリストデビュー前に美容室の仕事を離れ、催事場でワンランク上の接客を学ぶ「伊勢丹研修」もあります。こうした制度は、スタッフからも評判がいいです。

 

プロの画家から学ぶことができる「美術の時間」。

 

当時は「そんなによくして、スタッフに甘すぎるんじゃないの?」「本当にそれでちゃんと育つの?」と他のサロンの人に言われることもありました。実際、こうした制度を整えることはそれだけお金と時間がかかることでもあります。でも、私はオーナーになると「どうにかして、この子たちを育てたい」と思うようになっていたんです。あの手この手で成功体験を積ませて、スタッフに「美容師って楽しい」と思ってもらえるほうがいいんじゃないかって。

 

でも、ただ続けていてもみんな慣れてしまうので、定期的に作戦を変えるようにしています。例えば、みんなで夕飯を食べる「UMiTOSディナー」という方法があるのですが、それを当たり前に感じてしまっているようであれば朝ごはんに変えてみるなど。

 

UMiTOSで行われている共生教育はさまざま。こちらはスタッフみんなで夕食を食べるという「UMiTOSディナー」。

 

常に豊かなものはあげたいけれど、それにあぐらをかくと本人のためにはなりません。そうなりそうなときに、「じゃああげない!」じゃなくて、違う豊かさをぶつけて新鮮さを保つのが、UMiTOS流のやり方なんです。

 

>後編へ続く※2019年3月20日公開予定

 

プロフィール
UMiTOS
代表/砂原由弥(すなはらよしみ)・ちょきみ

都内の有名店店長を経て、出産を機に2008年に独立。 母親が40年間続けてきた美容室を継ぎ、千葉県南房総に「海と砂原美容室」をオープンののち、2011年青山に「UMiTOS」をスタート。サロンでは「共生教育」という独自の教育方法を実施している。ファッション雑誌、美容業界誌の表紙、CM、ドラマ、大河ドラマのポスター含め、PV、広告、カンヌ、ヴェネチア、香港、日本アカデミーショーなどの映画祭など多方面に活躍し、サロン活動に加え、芸能人のヘアメイクも数多く担当。全国各地からのセミナー講師、カットコンテストやフォトコンテストの審査員などのオファーも絶えない。著書に『なりたい自分は髪でつくる』(誠文堂新光社)、『はじめてのおうちカット』(アノニマ・スタジオ)、共著に『一刻もハヤクツマラナイゲンジツから脱出スル方法』(コワフュール・ド・パリ・ジャポン)などがある。

 

(取材・文/小沼理 撮影/河合信幸)

 

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