街の美容室vol.14 神楽坂 LOG SALON

−「ギャップ」(意外性)は、刺激になって楽しいですね。その他にも「ギャップ」の要素はありますか?

 

 

SNSで情報発信して集客するのが当たり前の時代ですが、うちはSNSに頼らな

い方針です。ご新規のお客さまは、ご紹介や通りがかりの方が多いです。それもIT社会では、意外なことかもしれません。

 

SNSを使わない理由は、アナログ好きというのもあります。僕たちのつくりたいものの本質を、機械や電波を通さずに、直接お客さまに伝えていきたい。互いの顔を見ながらお話をし、カットなどの技術を見ていただき、うちのよさを直に感じてほしいと思っています。

 

そうしてお客さま一人ひとりの個性を引き出し、一緒にスタイルをつくりあげていけたらいいなと。お客さまのご希望に新しいテイストも取り入れつつ、お客さまとコラボレーションをするイメージです。

 

カット席の横の曇りガラスは、外から見るとお客さまのシルエットがうつり、額縁に入れられた絵のように見えます。その額縁は年輪をイメージしたデザインで、お客さまと一緒に時間をかけてお店をつくりあげていきたいという思いを込めています。

 

−お客さまとのコミュニケーションは、対面で行うのが基本ということですね。

 

 

そうです。うちは郵便でダイレクトメールを出すこともしていません。年末年始のごあいさつも、秋口くらいから、お客さまの次のご来店の時期を予想しながら、一人ひとりに今年のお礼と来年のスタートの日程をお伝えしています。直接感謝の気持ちをお伝えすることにこだわっています。

 

マニュアル化された言葉ではなく、自分の言葉で丁寧に心を込めて伝えること。そして自分のポリシーをきちんと持ち、お客さまに媚びないことも大事にしたいですね。どこか自分に無理をした振る舞いや、思ってもいないうわべだけの言葉は、必ず見透かされてしまうと思うんです。

 

あと、今はバリアフリーにしている場所も多いですが、うちはあえてバリアを残しています。バリアがあれば気遣いが必要になり、そこにコミュニケーションが生まれます。

 

本当にちょっとしたことですが、たとえば、床に無垢の木材を使っているので、空気の乾燥具合で割れ目が足に引っかかることがありますが、そうしたとき「足元、お気をつけください」と声をかけるとか。ゴミ箱もあえて置いていませんが、お客さまがゴミを持っていたら、「よろしければ、お預かりします」などとお声がけをしたり。不都合は、会話が生まれるきっかけをつくってくれます。

 

−今後の方向性、目標があればお教えください。

 

 

方向性は店名にも表現しているところですが、それはこの先もずっと変わりません。「ログ」は大木という意味で、しっかりと地に根を張り、お客さまを支えるサロンになりたいという思いを込めています。また、「ログ」には航海記録という意味もあります。無数にある美容室を海にたとえて、そうした海を航海して迷ってしまったとき、ご自身のいる場所や「どうありたいか」「ここからどこに向かいたいか」を確かめに立ち寄ってもらえる場所でありたいと思っています。そしてこの場所を心地よく感じ、錨を下ろして落ち着いていただけたらうれしいですね。

 

神楽坂のこの店は、僕にとって軸となる重要な場所です。ここを起点に、まだ誰も目をつけていない魅力のあるものや場所を開拓し、活躍の場を広げていけたらいいなと思っています。

 

プロフィール
LOG SALON オーナー・スタイリスト
森田利幸(もりた としゆき)

東京都出身。東京綜合理容美容専門学校(現東京総合美容専門学校)卒業。原宿、表参道の大手美容室で活躍後、2010年、神楽坂にLOG SALONをオープン。美容師歴20年以上。しっかりとしたカウンセリングとカット技術の高さで広く支持されている。

 

 

(取材・文/揚石 圭子 撮影/泉山 美代子)

 

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