「仕事をもらうために何度も売り込みにいった」apish堀江昌樹さん。ヘアライター佐藤友美がみた”美容師列伝” 第3回「遅れてきた人」

連載「ヘアライター佐藤友美がみた 美容師列伝」。日本全国の美容師を取材してきたヘアライターの目線から、毎回「●●な人」を紹介し、その素顔に迫る企画です。第3回めは「遅れてきた人」。apish堀江昌樹さんです。

 

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(イラストレーション:カツヤマケイコ)

 

 突然ですが、ライターには、「お仕事をお願いしやすい美容師さん」と「お仕事をお願いするのに緊張する美容師さん」がいます。

 

 そして、私にとってもっともお仕事をお願いしやすい美容師さんといえば、apishの堀江さん。

 

 その優しさに甘えちゃいかんと思いながらも、「堀江さんとだったら、まだ練り上げる前の企画も一緒に相談しながら作っていけるかも」と思うので、過去に何度、ざるのような荒い企画を持ちこんで、ブラッシュアップにつきあってもらったことか……。すみません。いつも、本当にすみません。

 

 堀江さんは気取ったところが全然なく、すっごく話しやすい。

 それを本人に伝えたら「僕、よく、スタバやタリーズじゃなくて、ドトールでバイトやってそうだよね」って言われるんです、と、笑っていました。

 確かに、庶民派。人なつっこい笑顔と、笑うとなくなる目と、人に緊張感を与えないやわらかい話し方が、きっと多くのお客さまに(そして、私たちみたいなライターや編集に)支持されているんだろうなと感じます。

 

 今年の春にも、例によってとても複雑で面倒な企画をお願いしてしまいました。それは、数多くの撮影とサロンワークの合間をぬって、サロンの中で白髪染めのヘアカラーをさせてもらう企画でした。しかも、モデルさんは白髪が目立つくらい伸びたお客さま限定。モデル探しだけでも、ハイパー面倒な企画だったと思います。

 我ながら、鬼のようなリクエストだという自覚はあって、「本当に無茶ぶりしてごめんなさい。本当にご面倒かけてごめんなさい」と送ったら、堀江さんから営業後に戻ってきたメッセージがイカしてた。

 

「ぜんぜん大丈夫です! 僕、無茶と書いて、チャンスと読むと思ってるんで!」

 

 なんて、いい人なんだーーーーーー!! と、私は夜中の3時に本気で涙ぐんじゃいました。いろいろ仕事でトラブルが重なって参ってたタイミングだったから、地獄で仏に出会った気分だった。

 

 JHAにもノミネートされるほど、シャープなクリエイティブをされる一方で、50代のリアル白髪染めの企画にも全力で取り組んでくれる。毎日本当に忙しいだろうに、どの仕事のどのポイントにも妥協がないところがすごいと思う。

 ぶっちゃけ、ほんの少し手を抜いたって、ほとんどの人にはわからない。でも堀江さんは絶対にそれをしない。だから、編集もライターも、堀江さんの仕事には全幅の信頼をおいているのだと思います。

 そういうのって、口で言うのは簡単だけど、妥協しない仕事を毎日続けることって、実はすごくすごーーく、大変なはずだから。細い目で人にはいつもにこにこしながら、でも、びしっと自分を律しているんだよね、きっと。

 

 で、堀江さんのどこに、そういうエネルギーの源というか、マグマみたいなものはあるのかなって思うと、それはきっと本人の持って生まれた性質や人柄もあるだろうけれど、だけどやっぱり、彼のスタイリストデビューのころの経験も、無関係ではないだろうな、って思います。

 

 そう、私たち編集やライターには、堀江さんが「どんなに偉くなっても、ひとつひとつの仕事を大切に扱ってくれる」理由に、思い当たることが、あるんですよね。

 

 堀江さんって、誤解を恐れずに言えば多分、「遅れてきた人」だったんです。

 

 

>やる気はあるのに発表の場がない!

 

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