正しい人に正しいカット。MINX岡村享央さん。ヘアライター佐藤友美がみた”美容師列伝” 第7回「チャラくない人」

MINX-01_680_466

(イラストレーション:カツヤマケイコ)

 

「ヘアライター佐藤友美がみた 美容師列伝」。日本全国の美容師を取材してきたヘアライターの目線から、毎回「●●な人」を紹介し、その素顔に迫る新企画です。第7回めは「チャラくない人」。MINXの岡村享央さんです。

 

 >ヘアライター佐藤友美がみた美容師列伝バックナンバー

 


 

そこにゴールはあるのか? どうしてそんなに切るのか?

 

 ヘアライターになってすぐ「これは私、多分一生忘れない」と思ったシーンに出会ったことがあります。それが、岡村さんがひたすらにウィッグを切る姿でした。

 

 あれは確かミルボンさんのセミナーで流れた映像だったと思うのだけれど、当時のMINX central店のセミナールームにウィッグが100体以上ずらっと並べられ、そのウイッグをひとつずつチェックする岡村さんの後ろ姿が映っていた。何度も切って、確認して、また切って。何を考えているのかわからないけれど、また切りなおして、また切って。

 その映像を見たときに、背筋にぴりっと電流が走ったような気持ちになりました。

 どうしてこの人は、ここまでカットにこだわるんだろう。いま切ったばかりなのに、もう一度同じデザインを切り始めた岡村さんには、何が見えているんだろう。AとBにはどんな差があるんだろう。どこに到達したいんだろう。そもそも、カットデザインにゴールはあるんだろうか……。

 

 あれは間違いなく私が「この業界の人たちの頭の中を知りたい」と思った瞬間でした。美容師という職業に恋をした瞬間。

 

 岡村さんとお仕事をしたいと思ったものの、当時私は一般誌の、しかもギャル雑誌とモテ雑誌しか担当していなく、岡村さんも基本的に業界誌ばかりでお仕事されていたので、今思い出しても初めての打ち合わせでは、共通言語がなくてとんちんかんだった。

 

「この春はどんなヘアが流行りますか?」と尋ねた私に、岡村さんは、レイヤーがあがるとか(さがるだったかもしれない)、でも、フェイスラインは引き出し角度を変えてデザインするのが新しいとか、そういう技術的な話をされ、ライターになったばかりの私は、その技術的な用語の意味が全くわからなくて、さんざん説明を受けたあとに「えっと、で、それはどんな見た目になるんでしょうか?」と再び尋ねて、岡村さんは「え? いま説明したよね?」という顔をされていた。

 

 その後も、お仕事をお願いするたびに「どうして一般誌では写真セレクトを美容師がやらないの?」と岡村さんが聞き、「どうして自分以外のページのレイアウトを知らない美容師さんに写真がセレクトできるんですか?」と私が聞き返したり。

「最近気づいた! 撮影のときのスタリイング剤って重要じゃない?」と岡村さんがちょっと興奮気味に私に言い、「岡村さん、それ、いま気づいたんですか……?」と、呆然したってこともありました。「切り終わりが仕事終わり」という岡村さんには、当時、「フィニッシュワーク」という概念がなかったようです。

確かに、岡村さんのカットは、切り終わった瞬間に形になっていて、誰がどう乾かしたって形状記憶合金のように決まるだろうなと思わせるカットラインでした。そうか、こういうカットをしていたら、フィニッシュワークで「魅せる」必要はないんだ、と、幼心に(幼かった訳ではないです。ライターとして幼稚だったという意味です)思ったものでした。

 

主に業界誌で仕事をする岡村さんと、一般誌でしか仕事をしない私。

 

撮影のたびに少しずつ会話を重ねて、岡村さんはずいぶん俗世間のことを知ってくださり、私も孤高なカットデザインの世界のことを垣間見ることができた。岡村さんとの時間は異業種交流会のような時間でした。そして、私はその時間がとても好きだった。

岡村さんが切っている姿が好きだったし、フォームが好きだったし、切り終わったときに左右のバランスをチェックする姿も好きだった。

 

これが、美容の仕事なんだなー。美しいな。美しいデザインは美しい仕事から生まれるんだな、そんなことを思いました。私が美容師さんのことをすごくすごく好きだと思う理由の1割くらいは、岡村さんがカットする姿にあります。

 

 >正しいデザイン、正しい生活、正しい人生

Related Contents 関連コンテンツ

Guidance 転職ガイド

Ranking ランキング