Voicyスペシャル対談 LECO代表 内田聡一郎×Hair & Headpiece artist 光崎邦生(前編) LONDON、NY、TOKYO…三都市での挑戦と挫折が稀代のアーティストを育てた

「震災後にふと、ニューヨークに行ってみようと閃いた」(光崎)

 

 

内田:じゃあ、2年間はテストシュートをひたすらやっていたと。

 

光崎:それとひたすら遊んでいた。僕はロンドンのファッションが好きだし、パーティーシーンも好きだし。よく遊んで、そこで知り合った人と撮影しての繰り返し。同年代のクリエイターがたくさんいたんですよ。例えば、ベルリンからきたフォトグラファーやスタイリストとテストシュートしたりとか。で、それを雑誌に投稿して、良ければ掲載される。そういう時代だったんですよ。目立つ作品を送ると、声がかかった。

 

内田:なるほど、エッジのきいたものをつくっていたんだ。

 

光崎:そのころは、エッジのきいたものしかつくっていないね。

 

内田:エッジのきいたデザインはいつ培ったものなの?

 

光崎:TETSUさんについていたときかな。休みの日も素材探しや作り込みをしていて。ほぼほぼ異素材を使っていたし、髪型で爪痕を残すぞっていう感じの撮影ばっかりだったので。なので、一般的なヘアメイクのやり方がわからなかった。

 

内田:その時代のロンドンとも合っていたんだろうね。2010年に帰国するきっかけは何だったの?

 

光崎:結婚です。

 

内田:なるほど、そうだったんだね。で、またニューヨークに行ったじゃないですか。これはどうして?

 

 

光崎:東日本大震災の時に完全に仕事がストップして、すごく考えさせられて…。ファッションは経済的にも気持ち的にも豊かなときに求められるけれど、貧しかったり、大災害に見舞われたり、人間がいっぱいいっぱいのときには求められていないと感じた。「俺は何をやっていけばいいんだ」って思って。落ち込んだけど、ふと「ニューヨークに行ったことがなかったな」って閃いて。全く興味なかったのに、すぐにニューヨークの事務所にアプローチしたんです。ひたすらメールを送って。とりあえず一度現地に行ってみようってことで妻と旅行に行って、ついた日の朝に本命の事務所から「明日朝一で来てくれ」と返事がきた。イギリス英語とアメリカ英語って結構違うので3割くらいしか意味がわかってなかったんだけど、ごまかしながら話していたら契約書が出てきて「Welcome to NewYork」と言われて、ニューヨークで活動できることになったんです。

 

内田:そこはやっぱりエッジきいているエージェンシーだったの?

 

光崎:いや、クリーンでハイセンスなところ。でも、そういう場所のほうが輝けるかなと思ったので。

 

内田:王道なところだったんだ。角が取れて丸くなったとかそういう意味ではなく?

 

光崎:丸くなるというよりは、ネクストステージっていう感じ。自己満足で終わらせないというか。

 

内田:フィットさせてビジネスにしていく、と。

 

光崎:そう。そこにニューヨークに行く意味があると感じていた。初めて自分を売り込むこともしたし。

 

内田:そうか、作品というより、クライアントワークが増えていったと。

 

光崎:ビューティーの仕事は全く経験なかったけど、ニューヨークでいきなり本番みたいな感じ。

 

内田:そうだよね、自分の土台にないことだもんね。

 

光崎:もう挫折の連続で。撮影の帰りに公園のベンチに座って打ちひしがれたりして。

 

内田:自分の技術が追いつかなかったんだ。

 

光崎:撮影中に自分の居場所がないというか、存在感を消したいと思っていたくらいだったし。全然自分の土俵じゃないところで、しかも世界トップの環境に放り込まれたから何がOKなのかわからなった。ずっと無力感があったね。

 

内田:プロが集まってプライド持ってやってるからね。

 

 

光崎:ナチュラルなヘア、上質なヘアというときに、自分が何をすれば選ばれるのかがわからなくて、必死に食らいついていくんだけど、平均点以下みたいな。もう次、絶対に仕事がこないだろうなって。

 

内田:それでも手応えを感じられるようになったの?

 

光崎:いや、挫折ばかりで手応えはなかった。

 

内田:プロの厳しさを痛感した時代だったんだ。

 

光崎:トップの人たちの仕事を見られたのはよかった。それを後々自分なりに噛み砕いて、ようやく処理できるようになってきたかな。

 

内田:東京に戻るきっかけはなんだったの?

 

光崎:子どもが生まれたから。それにニューヨークに未練もなかった。今は東京がベースですね。

 

内田:いやぁ、ヒストリーが濃いなぁ。チャレンジャーだね、やっぱり。俺は石橋を叩いて渡るタイプだから、ある程度の実績と道筋が見えて「絶対失敗しない」と思えるところからスタートしてきた。邦生くんのほうが今っぽい考え方だよね。まずやってみて、アジャストしていくというか。

 

光崎:いや、意図的にやっているんじゃなくて、本当に追い込まれているだけだから。

 

内田:でも、自分が楽しいと思っている方向に向かっているよね。

 

光崎:本当に流れるままきている実感はあるね。

 

>「松竹梅みたいな感じね。俺も新規のお客さんがきたとき3つ提案してる」(内田)

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