「美容師である限り、進化し続けなければならない」胸に刻まれた言葉を自分の力に変えてきたー美容師のコトダマHank.米澤香央里さん―
おばあちゃんになっても切って欲しい

また別のコンテストでのこと。そのコンテストでは賞を獲ることができて、夜にスタッフや協力してくれたモデルさんと一緒に帰り道を歩いていました。
その時に、「コンテストにでてよかった。おばあちゃんになっても米澤さんに切って欲しい」とモデルさんが言ってくれて。その一言が賞をいただいたことより、なにより嬉しかったんです。

モデルをお願いする時、まだ関係性が作りきれていなくて、「コンテスト当日まで髪を切らないで」と言い出せずにいたんです。そうしたら堀江が、サロンから帰っていく彼女を追いかけて行って、「今回のコンテストは米澤が全てをかけて出るコンテストなんです。どうかそれまで髪を切らないでもらえないでしょうか」と頼んでくれたんです。モデルさんもそれを快諾してくれて、5カ月髪を切らずに我慢していてくれました。
私の思いに答えて同じ気持ちで戦ってくれるモデルさんをみて、彼女の人生も背負うつもりでヘアを作ろうと改めて思うことができました。
言葉がいつも自分を作っている

これまでの美容人生を振り返ると、今の自分につながっている言葉は、まだいくつもあります。時期もシチュエーションもバラバラですが、最近の自分に特に影響しているなと思い出す言葉を3つ。
1つ目は、ある雑誌の忘年会で聞いた言葉です。コロナよりもずっと前のことですが、あるレジェンドの方が「今、若い子たちが頑張っているけれど、僕は負けない」と話していて、「死ぬまで作品をつくり続ける。僕は僕で頑張るから、若い子たちにも負けない」と言っていたんです。「ああ、この人は死ぬまで作品をつくるんだ」とその姿勢に圧倒されたんです。それがすごくかっこよくて、自分も何歳になっても、どんな立場になっても、作品をつくることに挑戦し続けようと誓いました。
2つ目は、以前、アクセサリーブランドをやっていた方と一緒に個展を開いたんです、自分たちで写真集も作りました。その時、その方が「自分の価値は、自分でしか上げられない」ということを話していたんです。「あ、自分の価値って、自分で上げることができるんだ」とハッとしたんです。そう考えたら、自分次第でいくらでも高めていけるんだなって。自分自身も、ブランドの価値も、誰かに決めてもらうのではなく、自分でつくっていくことが大事なんだと、すごく腑に落ちたんです。

そして3つ目は、タクシーの中で見た、サカナクションの山口一郎さんのインタビューです。
「頑張りすぎているあなたへ」というテーマで、メッセージを求められた山口さんが、「頑張りすぎられるんだったら、それはすごくすごいことだから、頑張りすぎてください」と話していたんです。
さらに、「人生って何度かシャッターを切るチャンスがあると思うんですよね。そのシャッターを切れる時に切らないで、いつ切るのって思っちゃう」とも話していて。それがすごく印象に残りました。
人生の中で、ここだと思える瞬間が来た時に、どれだけシャッターを切れるか。自分も、そのチャンスが来たら、限界を超えるくらいまでやってみたい。たとえそのやり方がずっと続かなかったとしても、別の頑張り方はきっとあるから。大切なのは、その時だけ頑張って終わるのではなく、そこからまた歩み続けること。旬だけで終わらず、ちゃんと中身のある人として続いていきたいです。

そう考えると、やっぱり自分にとって「言葉」はすごく重要なんですよね。今は教育や審査員、セミナーなど、人に何かを伝える立場になることも増えました。熱い思いや気持ちを伝えて、人の心を動かすためには、言葉が必要です。
これまで受け取ってきた言葉は、そんな時の私の軸になっています。その場にいる人の温度感を感じながら、「この人にはどう伝えたらいいんだろう」と考えて、自分の中にある言葉の引き出しから、その時に必要な言葉を選ぶ。
その人の心を動かすには、どんな言葉を選べばいいのか。ちゃんと相手を見て、考えて、言葉を選ぶことも、今の自分にとっては、美容師としてのセンスの一つなのかもしれません。
プロフィール

Hank.(ハンク)/アートディレクター
米澤 香央里(よねざわ かおり)
千葉県出身。日本美容専門学校卒、資生堂SABFA卒。都内3店舗、ヘアメイクアシスタントを経て、SYANのオープニングメンバーとして参加。業界誌、アパレルLOOK、セミナー、写真展、アクセサリーブランドを立ち上げなど幅広いフィールドで活躍。2024年春からは、Hank.のアートディレクターに就任。2025年のJHA優秀新人賞を受賞。
(文/池谷美歩 撮影/菊池麻美)