先輩の技を観察し、徹底的に真似て自分のものにしてきた。 生涯美容師を誓い歩むこの道。頂はまだ見えない。 びよう道 vol. 32PEEK-A-BOO 福井達真さん

お客さまを笑顔にするヒントは、Abbeyの松永さんから学んだ

 

 

もう一人僕に影響を与えた先輩がその店にいました。元同僚で今は青山のヘアサロン「Abbey」の代表をしている松永英樹さんです。松永さんのお客さまはいつも笑っているんですよ。その一方で僕のお客さまはあんまり笑っていなかった。というのも僕は、職人タイプで黙々と髪を切ることが良いと考えていた節があったんです。

 

技術だけで月100万円くらいの売上はいくけれど、200万円、300万円の壁は越えられない。技術が上手いだけではダメだし、接客が上手いだけでもダメで、両方揃っている人がお客さまに選んでもらえる。それに気づいた僕は、松永さんの真似をしてお客さまと話すようにしてみたんです。

 

とはいえ、最初はどんな話題を選べばいいかわからない。そこで松永さんの会話に聞き耳を立ててみると大したことは話していなかった。「コンビニにある好きなものは?」と松永さん。「うーん、紗々(サシャ/ロッテのチョコレート)かな?」とお客さま。

 

「あー、紗々ね!チョコがアミアミになっているやつ」と松永さんは言いながら、自分の顔の前で指を絡ませてアミアミをつくって、「そう!それそれ(笑)」とお客さまの笑いを誘っていたんです。

 

「そんな話でいいのか」と思いましたけれど、これがヒントになりました。話の内容は特に深くなくてもよくて「楽しく話した。あのサロンに行くといつも楽しい時間が過ごせる。」という印象を残せたら十分なんだと思ったんです。

 

あえてPEEK-A-BOOらしくないデザインを打ち出し、注目を浴びた

 

 

27歳で店長に昇格し、同時にカリスマ美容師ブームが起こりました。雑誌に掲載されると凄まじい反響があり、たくさんの新規のお客さまが訪れた時代。あるときカリスマ的なデザイナーを8人くらい集める企画で、その中の一人に若手の僕が選ばれたんです。当然、気合が入ります。そこで、僕はあえてPEEK-A-BOOっぽくないことをしてみようと思いました。PEEK-A-BOOっぽいことをしても、僕よりも上手い人がいっぱいいるからです。自分がやりたいことを試してみようと思い、カットせずにデザインをつくりました。

 

60年代のマッシュスタイル、80年代のディスコスタイルなどのイメージをデザインに投影し、5作品を発表したんです。そうしたら「PEEK-A-BOOから面白いやつが出てきたね」という反応がありました。しかもそれがJHA新人賞にもつながったんです。

 

 

業界誌に出る機会も増えて忙しく働いていると、次はアートディレクターの伊東秀彦がいる店舗に異動しました。これも新しい転機になります。“ツーセクション”を打ち出し、最先端のデザインを生み出し続けてきた伊東からクリエーションを学べることになったんです。

 

「伊東さんはどうやってセンスを養っているんだろう」と思ってみてみると、情報をインプットする量が尋常ではないことに気づきました。なるほど、センスの源は情報なのだなと。伊東は常に新しい情報をインプットしてどんどん試していく。そのサイクルがとにかく速い。そのクリエイションのスタイルに自分も感化されました。

 

美容に人生を投じる覚悟があるから、大きな目標を達成できる

 

 

振り返ると、PEEK-A-BOOの優れた先輩を間近に見て、学べたことが今の自分につながっています。これは今でも同じですが、何かを吸収するには、その人を真似てみることが大事です。そうすると、その業界で一流とされる人たちは、誰よりも努力していることもわかってくる。努力は嘘をつかないんです。

 

そして、吸収してきたことの組み合わせ方にセンスが出る。そこにファッションやデザインを落とし込んだときに、オリジナリティのあるクリエイティブが生まれる。でも、そこに到達するまでには時間がかかるんですよ。挫折もしなきゃいけないし、知識を蓄える必要もある。ただそれも、美容に人生を投じる覚悟がある人にとっては、微々たる時間です。

 

例えば僕は、アートディレクターになるまでの間も長期的な目標を持って取り組んできました。アートディレクターになるには年間で1500万円くらい、その時点から売上を上乗せしなくてはなりませんでした。月あたり120万円から130万円くらい増やす必要があるわけです。

 

そこで僕は月10人の新規のお客さまを増やそうと考えました。それを10年続ければ、目標の売上に到達します。長期プランで考えたら、やり続けることは全く苦になりません。一生美容師を続けることを考えれば、10年は長くない。実際には、お客さまの紹介などで月10人よりも早いペースで増えたので、7年間で達成できました。

 

きっと、多くの人は「月10人増やすなんて少なすぎる。50人くらい増やさないと」と考えると思います。でも、50人は現実的じゃないからどこかで綻びが出ると思う。僕が長期的な目標を立てられるのは「生涯美容師」を前提に考えているからなんですよ。「生涯美容師」を掲げていたら、片手間で美容師をやっている人には絶対に負けない。この仕事に一生を捧げる覚悟があれば、誰でも絶対に良い美容師になれます。

 

 

美容師はやればやるほど、さらに高い目標が生まれる終わりのない仕事です。まだまだ僕の目には、山の頂が見えません。

 

 

PEEK-A-BOO

Art Director / 銀座並木通り店代表

福井達真

京都府出身。1994年、ル・トーア東亜美容専門学校卒業後、PEEK-A-BOOに入社。現在はPEEK-A-BOO全店舗のビジュアル統括クリエイティブディレクターを務める。全国各地で講習活動を行いながら、2021年からはPEEK-A-BOO ACADEMY の講師を担当。WEB ACADEMYを立ち上げ、動画配信などの分野でもディレクションを行なっている。

Instagram:@tatsumasafukui

 

 

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