年間指名数10,000人を3年キープ、80連勤、年間休日15日。美容業界を変える「何者か」になるために。GOALD 松本拓馬のびよう道
「何者か」にはなれたのか

なぜそこまでやれたのかというと、やっぱり「何者かにならなければ」という思いが強かったからだと思います。とはいえ、自分だけが売れたいとか、お金持ちになりたいという欲望は、そこまで強くないんですよね。もともと、性格的に“とことんやらないと気が済まない”タイプなんだと思います。
でも、それ以上に大きかったのは、単純にこの仕事が好きだったことかもしれません。
感覚としては、好きなゲームをずっとやっているのに近いというか。だから、あまり感情に左右されることもないんです。成功した、挫折した、みたいな感覚も実はあまりなくて。「一人前になったな」と感慨にふけることも、ほとんどありませんでした。
ただ、唯一あるとすれば、デビュー後に予約がすべて埋まり、給料が一気に増えたときかもしれません。
口座の残高を見て、「あ、本当にこんなにもらえるんだ」って思ったんですよ。美容師になりたての頃は、年収200万円あるかないかくらい。当時は、安かった鶏肉と卵で親子丼ばかり食べていました。料理が得意でよかったなって思います(笑)。それが、気づけば年収1,000万円くらいになっていて。木造アパートの1階に住んでいた生活から、住む家も少しずつ変わっていきました。
そういう現実的な変化を通して、「売れてきたんだな」という実感は、少しずつ湧いていった気がします。

そして、「何者かになれたか」。つまり、自分が“カリスマになれた”と思えた瞬間もありました。ある日、Googleで「カリスマ美容師」と検索したとき、検索結果の6ページ分くらいまで、全部自分の名前や記事だったことがあったんです。もちろん、明確な定義なんてない世界だと思います。でも、そこまでいったら、もう“カリスマ”って言ってもいいんじゃないか、って。
サロンワークでも第一線で活躍しながら、テレビに出演して、バラエティ番組にも呼ばれるようになって。本を出して、雑誌にも出て、モデルもやる。僕の中では、そんなふうに業界の枠を超えて認知される存在になることが、“カリスマ美容師”の条件だったんです。
そして実際に検索すれば、自分の記事や名前が大量に出てくる。その状態を見たときに、「ああ、ここまでは来れたんだな」と思いました。

もともと僕がカリスマになろうと思ったのは、「美容業界を変えたい」という思いがあったから。実際、当時と比べると、業界はかなり変わったと思います。シンプルに技術力の水準が上がっていますし、特にメンズ美容師の存在感は大きく変わりました。昔は、“美容師=女性の髪を切る仕事”というイメージが強かった。でも今は、メンズ美容そのものが一つのカルチャーとして認知されるようになってきている。そこに関しては、自分も少なからず貢献できたんじゃないかなと思っています。
ただ、まだ変えたいことはあります。
最近は、美容師が「なりたい職業ランキング」で少し下がってきているじゃないですか。だからこそ、もう一度「美容師ってかっこいい職業だ」と思ってもらえる業界にしたいんです。そして個人的には、“おっさんになっても活躍できる”ことを、自分自身が証明していきたいですね(笑)。
美容師って、若さだけの仕事じゃないと思うんです。年齢を重ねても第一線で活躍できる姿を見せることで、業界の未来も、これからもっと変えていけるんじゃないかなと思っています。
成功の対義語は失敗ではない

今の若い子を見ていると、すごく頭がいいなと思うんです。だからこそ、考えすぎてしまったり、失敗を避けようとして、行動に移せなくなっている子も多い気がしていて。
でも、僕はまず動いてみることが大事だと思っています。
成功の対義語って、失敗じゃないんですよ。成長しないことだと思うんです。
実際、成功から学べることって意外と少ない。でも、失敗からは本当にたくさんのことを学べる。だから、思い立ったらすぐ行動する。さっさと失敗して、またすぐ挑戦する。その繰り返しなんですよね。

僕自身、たまたま美容師として成功していますが、数を打って失敗しながら挑戦し続けた結果、美容師という仕事との相性が良かった。そして、運も良かった。
ただ、その運を掴むために、いつ来るかわからないチャンスに備えて、何事にも全力で向き合ってきました。失敗して、学んで、また挑戦する。その積み重ねが、今につながっているんだと思います。
だから、若い美容師のみなさんにも、たくさん挑戦して、たくさん失敗してほしい。
一緒に頑張りながら、美容師を楽しんでいきましょう。

- プロフィール
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MEN’S salon GOALD 渋谷/トップスタイリスト
松本拓馬
早稲田美容専門学校を卒業後、AKROSに入社。年間総指名数1万人を超える。超高速カット技術「ライジングカット」で注目を集め、メディアに多数出演。2025年9月から中村トメ吉率いるGOALDの一員となる。これまでも美容師の技術力向上を目指し、自社セミナーの開催、技術講師などを務めてきたが、今後はますます業界の技術力を底上げするために尽力の予定。
Instagram:@takuma_matsumoto_
(文/富樫聡美 撮影/菊池麻美)