“深さ”を追求し続けることで、自分だけの美容をつくる―hodos 山下純平のびよう道
壁にぶつかっても、今できることは何かを考える

美容師として順調に進んでいるように見えても、壁は何度もありました。売上で言えば、150万円で止まった時期、200万円、250万円、300万円を超えた後も、それぞれ次の壁がありました。1位になりたいというより、「もっと上を目指したい」という気持ちが強かったので、次のステージに進むたびに苦しさもありました。
そしてやればやるほど体が酷使され、一番辛かったのは激しい手荒れでした。本当はもっとサロンワークも練習もしたい。でも手がついてこない。ただ、そこで「できない」と諦めるのではなく、「今できることは何だろう」と考えるようになりました。本を読んだり、パソコンに向かったり、技術以外の知識を増やす時間に変えていきました。自分はできるだけ本を読むようにしています。そこには必ず、自分で試したくなるヒントがある。その中から小さな目標を具体的な言葉にして、行動に落とし込んでいくんです。どれだけ強い思いがあっても、行動にしなければ変わらない。だからこそ、できないことに目を向けるのではなく、その状況で今できることを考えて、ひとつずつ行動に変えていくようにしています。

振り返ると、その経験は今の教育にもつながっています。昔の自分は、とにかく量をやることが優先でした。まずはこの回数をやる。その中で成長する。でも結局それをやれる人間はごく一部。今の教育で大切にしているのは、本質を伝えることです。理由が分からないまま続けることは難しい。間違った方向で200回繰り返しても意味がない。だから今は、技術や数値だけではなく、その人がどこを目指しているのか、途中でどう感じているのかを確認しながら伝えることを意識しています。

強度や基準を下げるつもりはありません。誰かを辞めさせないためにレベルを下げるのは本末転倒だと思うので。お客さまにとって必要なクオリティを守った上で、その人が前に進めるように、伝え方やアプローチを変えていく。これからの教育には、そういう柔軟さが必要なんじゃないかと思っています。
主導権を握った先に、組織としての挑戦がある

自分が一人の美容師として自立できたと感じた瞬間は、肩書きや売上ではなく、自分で時間や環境をつくれるようになったときでした。お店のスケジュールを考える。先輩やスタッフの動きを考える。そして自分自身の時間をどう使うかを決める。組織の中で、自分が何をするべきかを考えながら主導権を持てるようになった時に、「ここまで来たんだな」と実感しました。
僕はずっと、業界で常識とされていることにとらわれず、「これがいいのではないか」と考えたことを実験して、本当に良いものを世の中に残していきたいと思っていました。そのためには、自分一人でやるのではなく、組織として取り組む必要があります。たとえば、週休3日にしたら本当に売上は下がるのか。みんなが怖がる単価アップも、実際にやってみたらどうなるのか。美容業界には、いつの間にか「当たり前」になっているけれど、よく考えると理由が分からないこともたくさんあります。
だからこそ、そうした常識をそのまま受け入れるのではなく、「本当にそうなのか?」と自分たちで試して、より良い形を探していきたい。自分が主導権を持てるようになったことで、そうした挑戦も組織としてできるようになりました。

ただ、最終的に大事なのは、自分やスタッフが楽になることではありません。お客さまにどんな価値を届けられるかです。そこまで自分で考え、周りを巻き込みながら形にできるようになったことが、自分にとっての「一人前」なのだと思います。
まずは「なりたい自分」を決めることから始めてほしい

これから一人前の美容師を目指す人に伝えたいのは、まず「なりたい自分」を決めることです。売上や給料の目標も大切ですが、それは状況によって変わっていくもの。だからこそ、「こういう美容師になりたい」「この技術を身につけたい」という、自分が目指す姿を持つことが大切だと思います。遠い未来が見えないなら、1年後、3カ月後、1カ月後でもいい。今の自分が想像できる範囲で、少し先の目標を決めて行動する。その積み重ねが成長につながります。

そして、目標にしたい人を見つけることも大切です。質問する、真似する、実践する、結果を見て修正する。その繰り返しの中で、自分なりの答えが見つかっていくと思います。
ただ、最後に進む道を決めるのは自分自身です。人の成功例を参考にすることはできても、自分に合う形は自分で試しながら見つけていくしかありません。
僕自身も、まだまだつくりたいものがあります。カルチャーや個性を持ちながら、より多くのお客さまに価値を届けられる場所をつくりたい。ハサミやスタッフ、空間、プロダクトまで、自分がこだわるものをすべて形にしていきたいと思っています。

美容師は、決められた正解に向かう仕事ではありません。だからこそ、自分がどこを目指すのかを決め、本気で向き合い続ける人には大きな可能性がある仕事だと思います。
「探してでもこの人にお願いしたい」と思ってもらえる存在になること。それが今、自分が目指している美容師の姿です。
プロフィール

hodos代表
山下純平 Junpei Yamashita
千葉県出身。大学および日本美容専門学校卒業。都内1店舗を経てnanukで店長、ディレクターとして活躍。2020年に独立し、hodosを立ち上げる。現在はhodos Experiment・hodos ephemeraの2店舗を率いる。卓越したヘアデザインのセンスの持ち主。ファッション、フレグランス、ミュージック、フラワーなどにも精通。原宿・表参道界隈の美容師にも一目置かれる存在。
Instagram:@yamashita_hodos
(文/池谷美歩 撮影/菊池麻美)