【フリーランス5年目にして銀座で挑戦】苦境もインバウンドも力に変える。西田智美が目指す「髪を超えた美容師」のかたち
銀座に移った理由は、「銀座だから」ではなく環境
――そして今回、恵比寿から銀座へ拠点を移しました。銀座を選んだ背景には、西田さんなりのこだわりがあったそうですね。
私は、単純に「フリーランスだから自由に働きたい」と考えているわけではありません。その自由を、お客さまのためにも使いたいと思っています。今回、銀座へ拠点を移したのも、より快適に過ごしていただける環境をつくりたかったからです。
今の個室サロンには、セット椅子とシャンプー台が一体になっています。周囲を気にせず過ごせるのはもちろん、シャンプーのたびに移動する必要もありません。お客さまが来られたら、その空間はその方だけの時間になります。例えば、縮毛矯正はどうしても施術時間が長くなりますよね。その時間に勉強の資料を持ってきたり、仕事をしたりするお客さまもいます。だから、施術中に仕事をしていてもいいし、何もせずにゆっくりしていてもいい。美容室に来たからといって、必ず美容師とずっと会話をしなければいけないわけでもありません。
お客さま一人ひとりが、「今日はどう過ごしたいか」を自分で選べる。私は、それも美容室の大切なサービスの一つだと思っています。銀座という場所そのものにこだわったというより、お客さまにとって、より心地よく過ごせる環境を選んだ結果です。今回の移転は、そんな自分の考えを形にするためのものでした。
それに銀座に来たからといって、急に何かが変わるわけではありません。まだ移ってきたばかりなので、正直、環境に慣れなくてドギマギしています(笑)。銀座という場所柄、インバウンドのお客さまも多いので、これからまた新しい出会いがあるんじゃないかなと思っています。

「フリーランスに向いている」とは、今でも思っていない
――フリーランスになって5年。今振り返って、自分はフリーランスに向いていたと思いますか?
実は今でも、向いているとは思っていないです(笑)。自分にものすごく強い武器があるわけでもないし、尖った個性があるわけでもない。強力なコネクションがあるわけでもない。そもそも、フリーランスになったときも「よし、フリーランスになるぞ!」という感じではなくて、「ならせてもらった」という感覚に近かったんです。本当に、いろいろな人に助けてもらいながらここまで来ました。だから、「全部自分の力でやってきました」という感覚はまったくないです。むしろ、たくさんの人とのつながりを与えてもらったから今があると思っています。
フリーランスって、一人で全部やらなきゃいけないように見えるじゃないですか。でも、実際には人とのつながりがすごく大事なんですよね。ありがたいことに、今は美容師としての仕事以外にも、いろいろなお仕事につながっています。例えば、美容メーカーさんのお仕事で、CMに出演させていただいたことをきっかけに、その後も関係が広がって、出張させていただく機会なども増えました。そういう経験も含めて、「フリーランスになったからこそ出会えた人や仕事」がたくさんあります。
美容は「心の栄養」。忙しい女性が、前を向ける場所をつくりたい
――これから、どんな美容師になっていきたいですか?
大きなことを言っていいなら、「美容家」になりたいです。自分から「美容家です」と名乗るのはちょっと恥ずかしいですけど(笑)。でも、髪の毛“だけ”をきれいにする人ではいたくない。今の環境は1対1でお客さまと話せるので、悩みを拾いやすいんです。その悩みを聞いて、髪のことと組み合わせながら、トータルで提案できるようになりたいと考えています。
そのためには、自分自身が健康でいることも大切だと思っています。私は食べることにも興味があって、料理も好きなんです。きれいな髪をつくるためには、頭皮の健康も大事。頭皮の健康を考えていくと、食事や腸のことにもつながっていくと思うんですよね。
そして女性って、メンタルが揺れることもありますよね。私自身もそれを感じることがあります。だからこそ、健康でいることはすごく大事だと思っています。もちろん、髪をきれいにする技術はこれからも勉強していきたい。でも、それだけじゃない。お客さまが美容室に来た時間そのものを、もっと価値のあるものにしたいんです。

――「美容家」という言葉には、どんな思いがありますか?
美容って、女性にとって「心の栄養」だと思っているんです。美容室に行くこと自体が、ちょっと気分が上がることじゃないですか。だから、髪の毛をきれいにして帰っていただくのはもちろんなんですけど、それだけじゃなくて、「今日ここに来てよかった」と思ってもらえる場所にしたい。そして、気づいたら髪もきれいになっている。それが私にとっての美容室の理想です。
アシスタント時代、シャンプーをしていたときも、もしかしたら同じような気持ちだったのかもしれません。シャンプーをするとき、「私の世界へようこそ」という気持ちでやっていました(笑)。どうしたら気持ちよくなってもらえるかな、どうしたら眠ってもらえるかなって。今は、それがシャンプーだけじゃなくて、2〜3時間という施術時間全体に広がったのかもしれません。
銀座から広げていく、「自分にしかできない美容」
――最後に、銀座を新しい拠点にして、これから挑戦したいことを教えてください。
まずは、もっといろいろな方に知っていただきたいです。海外のお客さまとも、もっと関わっていきたい。まだ英語も勉強中ですし、対応できる髪質も限られています。でも、だからこそ勉強したいと思える。分からないことがあるから、面白いんですよね。
それと、美容師という仕事をもっと広く捉えていきたいです。例えば、髪だけじゃなくて、食事や健康、リラックスできる時間まで含めて、「その人がきれいになるために必要なもの」を考えていきたい。
これからは私自身が誰かに何かを返せる人になりたいですし、お客さまにとって「会うと元気になれる」と思ってもらえる存在になれたら嬉しいです。髪をきれいにすることは、もちろんこれからも大切。でも、その先にあるものまで提供できる美容師になりたい。それが、今の私が目指している「美容家」という形なのかなと思っています。

- プロフィール
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西田智美
東京都出身。国際文化美容専門学校卒業後、都内を中心に展開する大型サロンに入社。目白店に配属され、上質な客層を担当するなかで、若いうちから大人のお客さまへの接客・対応力を身につける。その後、同社最速でスタイリストデビューを果たすし、。その後、表参道の個人店へ転職するも、客層や店舗環境とのギャップを感じて、2カ月で退職。26歳でフリーランスへ転身する。以降は、顔タイプ診断や縮毛矯正をはじめとするケミカル知識を深めながら新メニューを開拓する一方で、インバウンド客にも対応した独自のスタイルを確立。フリーランス5年目となる現在は、銀座に拠点を移し、1対1の施術を軸に、お客さま一人ひとりに合わせた美容を提案している。
Instagram:@nishida_tomomiii
(文/石田雅子 撮影/松林真幸 MIKAN inc)