「特殊ヘア」を、特殊で終わらせない。ブラックカルチャーを”日本人に似合うデザイン”へ──蓮沼優祐が切り拓く新スタンダード
「技術」ではなく、「設計思想」を

蓮沼さんが考案した「スパイキーアフロ」
――蓮沼さんの代名詞ともいえる「スパイキーアフロ」は、どのように生まれたのでしょうか。
針金パーマという技術自体は、昔からあるものなんです。だから、新しい技術を発明したという感覚はなく、デザインとして再構築した感覚です。
ブラックヘアなどの海外スタイルをそのまま日本人に当てはめても、どこか違和感が残る。
もっと骨格に合う形があるんじゃないか。
もっと髪質を生かせる方法があるんじゃないか。
そう考えたことが始まりでした。

まず見直したのは、カールの大きさです。そこから毛量のコントロール、カットライン、シルエット、骨格補正まで、一つひとつ検証していきました。どれか一つを変えれば完成するわけではありません。すべてが噛み合って、初めて「日本人が自然に似合うバランス」が生まれるのです。だからスパイキーアフロは、一つのヘアスタイルというより、「どう設計すれば似合うのか」という考え方なんです。
最初は常連のお客さまにお願いして、何度も試させてもらいました。
「前より扱いやすい」
「この形が一番好き」
そんな言葉をいただくたびに少しずつブラッシュアップしていって、ようやく今の形になりました。技術って、美容師が完成させるものじゃないんですよ。お客さまと一緒につくり上げていくものなんです。

――Instagramで発信されている動画も、非常に印象的です。
ありがとうございます。あの動画って、完成したヘアスタイルだけを見せたいわけじゃないんです。ロッドアウトした瞬間から、コーミングだけで一気にアフロへ変わっていく。その変化を見たお客さま自身が、思わず笑顔になる。そのリアクションまで含めて、一つのデザインだと思っています。
髪型が変わる瞬間って、人の表情まで変わるんですよ。その変化を見ていると、やっぱり美容師って面白い仕事だなと思います。

PROSHOP WAVEという思想
――横浜から渋谷へと活動拠点を移し、フリーランスを経て出店されました。独立は以前から計画していたものだったのでしょうか?
アシスタントの頃から、30歳までには自分のお店を持つと決めていました。ただ、勢いで独立しようと思っていたわけではなくて、「自分に何が足りないのか」「独立するためには何が必要なのか」を逆算して考えていました。技術力はもちろん、売上をつくる力、自分を知ってもらうための発信力、そして資金。必要なものは全部準備しておきたかったんです。
渋谷のサロンで働き始めた頃は、最初の3カ月くらいは集客に苦戦しました。でも、そこから少しずつ結果が出始めて、売上も右肩上がりで伸びていきました。
渋谷という立地も大きかったと思います。たくさんの人に自分の存在を知ってもらえる環境でしたし、SNSを活用したブランディングも確立することができました。「このタイミングなら次のステージに進める」と感じたところで、フリーランスという働き方を選びました。
独立資金を貯めながら、出店に向けて準備する期間ですね。自分の中では、そこまでの流れはある程度イメージしていました。

――そして2022年11月にPROSHOP WAVEをオープンされました。裏原宿の細い路地を入り、階段を降りた先にある空間は、まさにPROSHOP WAVEらしい世界観を感じます。この場所との出会いにはどんな背景があったのでしょうか?
実は、この物件に出会うまで1年半くらい探しました。個人美容師としての実績はあっても、会社として見るとまだ実績はゼロです。物件探しでは、どうしても法人さんと同じ土俵で審査されるので、なかなか厳しかったですね。事前審査で何度も落ちましたし、途中からは「今回も難しいだろうな」と思うようになっていました(笑)。
そんな中で唯一決まったのが、今の場所でした。だからこそ、ここは本当に縁があった場所だと思っています。PROSHOP WAVEって、ただ技術を提供するためだけの場所ではなくて、人が集まって、カルチャーが生まれていく場所にしたかったんです。裏原という場所も、自分たちのスタイルを発信するにはすごく相性がいいと思っています。

――店名の「PROSHOP WAVE」にも、蓮沼さんのルーツが込められているそうですね。
実はPROSHOP WAVEという名前は、父親が営んでいた車屋の名前なんです。
僕は三兄弟の次男なんですが、兄弟誰も車に興味がなくて(笑)。父の仕事をそのまま継ぐことはなかったんですけど、せっかく父が築いてきた名前を、違う形でも残したいという気持ちがありました。その思いを父に伝えたところ、「いいんじゃないか」と了承してくれて、この名前を使わせてもらっています。
PROSHOPという言葉には、その分野の専門的な知識や技術を持った人がいる場所という意味があります。美容の世界でも、ただ髪を切るだけではなく、ブラックヘアに関する知識や技術が集まる専門店として存在したいと思いました。父がつくった名前を、自分のフィールドで新しい形に育てていく。そういう意味でも、PROSHOP WAVEは自分にとって特別な場所ですね。

――蓮沼さんは外部セミナーの講師としても活躍されています。その経験は、サロン内の教育にも生かされていますか?
僕自身がずっと表に出続けたいという気持ちは、実はそこまで強くなくて。もちろん、独立したばかりの頃は、自分が結果を出さなければいけないと思っていました。そのためそのため外部セミナーの依頼も積極的に受けるようにしていたんです。
でも、今は考え方が変わりました。共に働くスタッフたちのことを、自分は大切な“仲間”と考えています。自分が注目されることよりも、仲間たちが活躍できる環境をつくることの方が大切だと思っています。セミナーに関しても、最終的には僕ではなく、仲間が登壇できるようになってほしい。
そのために、普段の教育では単純に技術を教えるだけではなく、「人に伝えられるレベルまで理解する」ということを大切にしています。自分が持っている知識や経験を次の世代につないでいく。それによって、一人の美容師の技術ではなく、PROSHOP WAVEの文化が育っていくと思っています。