「有名になって高級車に乗ることだけが成功じゃない」美容師の生き方を広げる美容文藝誌「髪とアタシ」って?

光が当たらずに消えていく、美容の文化や歴史をアーカイブしたい

 

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―しかしなぜ、営業ノウハウを学んだのち、サロン経営ではなく雑誌を作ろうと思ったのでしょうか?

 

「なんで『髪とアタシ』を作ったの? ってよく聞かれるんですが、根っこを正すと美容業界へのアンチテーゼなんです。僕にとって美容専門学校の授業は、免許を取るためだけに感じてめちゃくちゃつまらないと思っていたし、最初に就職したサロンではここで話せないような事件を目の当たりにして、ものすごい底辺を見てしまった。編集者時代には、頑張っても報われないアシスタントをたくさん見てその子たちを応援したいと思ったし、素晴らしい美容師がたくさんいることも知ることができた。営業マン時代は、お金を稼ぐことだけに夢中になって、スタッフもお客さんも大切にしないようなオーナーも見てきました。創刊のきっかけは、これまでの美容業界への怒りがベースなんです。美容業界の問題や言いたいことを、ひとつのメディアにして発信しようと思って『髪とアタシ』を作りました」

 

-『髪とアタシ』は、登場する美容師や装丁、企画など、ほかの美容業界誌とはまったく異なるポジショニングに見えます。どんなコンセプトなのでしょうか?

 

「あえてポジショニングは他誌と別のところに置いています。『髪とアタシ』に登場するのは、髪を切るだけのサロンワーカーじゃない美容師。言い方はあれですけど、美容業界誌が取り上げてこなかった“少し変わった美容師さん”を紹介しているのが他誌と大きく違う点かと思います。業界誌に取り上げられるのは、東京や主要都市で売れている若くてファッショナブルな美容師さんが多い。表に出てくるのはキレイなところばかりです。でもそこ以外にも、すごくいい仕事をしていて地域からも愛されていて、美容師として素晴らしい生き方をしている人たちがたくさんいる。それを伝えたいんです」

 

-過去にはどんな美容師が登場したのでしょうか?

 

「第3刊では、“夢のある編み込み”の提唱者であるかわさきマイスターの三上峰緒さんや、パンチパーマのブームを作った人物でリーゼントを作らせたら日本一うまい床屋の田中實さんにご登場いただきました。いわゆる、髪を切って生業をたてるというサロンワーカーが前提で、それプラス、髪にまつわる価値を作ってきた人を背景含めて紹介したいなと。一言でいえば“髪の教養”ですね」

 

-たしかに、学校やサロンでは教えてもらえない「教養」ですね。でも、なぜそれを美容師に伝えたいのですか?

 

「知っておくべきことだと思うんです。田中さんは床屋界で有名な人なのに、これまで取材をほとんど受けたことがないって言われていて、すごく喜んでくださった。それを聞いて、逆にこれまで理容美容業界がなんで田中さんを取材してこなかったのかってすごく疑問に感じた。あれだけ素晴らしい技術とノウハウを持っているのに、そのアーカイブを残さない、残しにいっていないことって問題だと思うんです。だって、70、80代のいい技術や知恵をなんらかの形で残していかないと、今後引っ張り出せなくなってしまいますから。そうやって消えていく文化、歴史をアーカイブしていきたいんです」

 

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