「特殊ヘア」を、特殊で終わらせない。ブラックカルチャーを”日本人に似合うデザイン”へ──蓮沼優祐が切り拓く新スタンダード

コーンロウ、ブレイズ、針金パーマ──。かつては「限られた人だけのヘアスタイル」と受け止められてきたブラックヘアは、いま少しずつ、その輪郭を変え始めています。その変化の裏側には、一人の美容師が積み重ねてきた試行錯誤がありました。
神奈川・横浜で美容師としてのキャリアをスタートし、渋谷、そして原宿へ。メンズヘアサロンPROSHOP WAVE(プロショップウェーブ)代表・蓮沼優祐(はすぬまゆうすけ)さんは、海外で生まれたブラックヘアをそのまま再現するのではなく、日本人の骨格や髪質、ライフスタイルに合わせて再構築。その探究の先に生まれたのが、独自の「スパイキーアフロ理論」です。
蓮沼さんが追い求めてきたのは、派手さでも希少性でもありません。「特殊だから選ぶ」のではなく、「似合うから選ぶ」。ブラックヘアを”一部の人のカルチャー”から”誰もが楽しめるデザイン”へ。その境界線を書き換えてきた蓮沼さんのデザイン論に迫ります。
コピーでは、文化は根付かない。
――蓮沼さんの仕事を見ていると、ブラックヘアを再現しているというより、日本人に似合うデザインへと進化させている印象があります。その発想は、どこから生まれたのでしょうか。
新卒で入社したのは、横浜のギャルサロンでした。当時は「美容師をやるなら、カラーやエクステを武器にしたい」と思っていたので、ダブルカラーやエクステを中心に学んでいました。その一方で、学生の頃からHIPHOPカルチャーが好きだったんです。音楽はもちろん、ファッションやヘアスタイルも含めて、あの世界観に強く惹かれていました。だから、ブラックヘアを扱うサロンへ転職したのも、ごく自然な流れでした。
でも、実際に技術を学び始めると、違和感があって。海外のスタイルは、本当に完成されている。だから最初は、ただただ格好いいと思っていました。でも、それをそのまま日本人に落とし込んでも、同じようには成立しないんです。骨格が違う。髪質が違う。毛流れも違う。さらに、日本で生活する人たちが求めるデザインや日常も、海外とはまったく違います。

だから、「そのまま再現すること」が正解ではないと思いました。ブラックヘアというカルチャーを尊重しながら、日本人に似合う形へと組み替える。その作業こそが、自分の役割なんじゃないかと考えるようになったんです。
そう思うようになってからはだからSNSで海外の作品を見ても、そのまま真似をすることはありませんでした。「なぜこのフォルムなのか」「なぜこの質感なのか」。その理由を分解し、自分なりに組み立て直す。モデルさんやウィッグを使って何度も検証を重ね、「日本人なら、こうした方がカッコいい」という答えを探し続けてきました。技術を覚えるというより、一つの文化を理解し、自分なりに表現し直す。その繰り返しだったと思います。

――特殊ヘアは、決してニーズの大きなジャンルではありません。それでも、そこまで夢中になれた理由は何だったのでしょうか。
成人式で、初めて自分自身がコーンロウを入れた日のことは、今でも鮮明に覚えています。鏡に映った自分を見た瞬間、「同じ人間なのに、こんなにも見え方が変わるんだ」と衝撃を受けました。
周りからの見られ方も変わりましたが、それ以上に大きかったのは、自分自身の感覚です。自然と背筋が伸びる。歩き方まで変わる。「こんな自分もいるんだ」と思えたことで、少しだけ堂々と人前に立てるようになったんです。そのときに初めて、美容師が変えているのは髪だけじゃないんだと気づきました。

髪型は、その人の印象を変えるだけではありません。その人が、自分自身をどう見つめるかまで変えてしまう。だから僕にとってブラックヘアは、「派手なデザイン」ではないんです。誰かが自分らしくいられる理由をつくるためのデザイン。「こんな自分になってみたかった」という気持ちを、髪型を通して形にする仕事なんだと思っています。