“深さ”を追求し続けることで、自分だけの美容をつくる―hodos 山下純平のびよう道

美容室でも待遇や休日が大切と言われる時代です。もちろんそれも良いですが、美容人生のどこかで“心も体も美容でいっぱい”という時期があっても良いかもしれません。
「びよう道(みち)」は、そんな地道で壮大な鍛錬の道を歩んできた“美容の哲人”に、修行時代に一人前になったと思った瞬間や美容の哲学など、それぞれの美容の道を語っていただく連載企画です。
今回登場するのは、奇をてらわないのになぜか目を奪われる表現で、多くのお客さまから支持を集めるhodos(ホドス)山下純平(やましたじゅんぺい)さん。音楽やファッションなど幅広いカルチャーを掘り下げ、自分だけの表現を追求してきた山下さんは、アシスタント時代から365日美容に向き合い続けてきました。
スタイリストとして結果を出した後も、売上や肩書きだけを追い求めるのではなく、「美容師として何を届けたいのか」を問い続けてきた山下さん。その中で見つけた、美容師としての軸を作ること、選ばれ続ける美容師になるために必要なこととは。
“切る”から始まった、美容師の輪郭

子どもの頃から、「美容師になりたい」と強く思っていたわけではないんです。今みたいにSNSや何かを見て憧れた、というよりは、もっと原始的なきっかけでした。
始まりは、小学生の頃、自分の髪をふざけて切り始めたこと。それがだんだん楽しくなってきて、友達やその兄弟の髪まで切るようになっていって。気づいたら、とにかく“切りまくっている”状態でした。小中とそんな感じで過ごすうちに、「髪を切るのが好きなんだな」という感覚が自然と根づいていったんだと思います。
そこから床屋ではなく美容室に行くようになって、少しずつ“美容師という仕事”を意識するようになりました。地元のサロンでは物足りなさを感じて、少し離れた都市部の美容室に足を運んだときに、自分の中でひとつの転機がありました。ものすごく衝撃を受けるカットをしてもらったんです。前髪を短く切ったウルフスタイルで、バランスも含めて「こんなにかっこよくなるんだ」と思った。ただ、サッカー部だったので翌日坊主にさせられたんですけど(笑)。

でも、その体験以上に大きかったのは、そのあとです。同じサロンで別の美容師さんに担当してもらったときに「こういう美容師は苦手だな」と感じる経験をしたんです。いわゆるチャラチャラした男性美容師さんで、礼儀もなく、タバコ臭い。言葉遣いや立ち振る舞い、空気感も自分の感覚と合わない部分が多かったし、技術的にも納得できなかった。当時、自分で髪を切ることに興味があったからこそ、余計にそう感じたのかもしれません。
同じ場所でも、担当者が違うと、真逆の体験が起こるんだという不思議さと同時に、「美容師って何なんだろう」と初めてちゃんと考えました。
自分が美容師をやるなら、ちゃんとした人間でいたい。マインドという言葉が正しいかはわからないけど、人としても信頼される美容師になりたい。それが、“本気で美容師をやろう”と思ったきっかけです。
遠回りのようで、いちばん濃い助走

すぐに美容専門学校へ進んだわけではありません。親の意向もあり、「技術以外のことも学んでからでも遅くない」と、一度大学に進学しました。正直、その時点では「本当に美容師になるのか」という迷いもありました。
ただ、大学に通いながら自分で探して出会った美容師の方々は、いい人ばかりだった。その出会いを通して、「やっぱりこの道に進みたい」と思えたんです。
だったら一日でも早く近づきたい。そう思い、大学に通いながら夜は美容専門学校へ。昼は大学、夕方から専門学校、その合間や深夜にアルバイト。さらにサークルの代表も務めていたので、今振り返るとかなり詰め込んだ生活でした。

学費は自分で賄っていたため、スターバックスと深夜バイトを掛け持ちしていました。環境としてはハードでしたが、不思議と辞めたいと思ったことはありません。むしろ、その中で出会った人や環境から学ぶことの方が大きかった。
特にスターバックスでの経験は、自分の価値観に強く影響しています。小規模店舗と大型店舗、カルチャー性の高いチームと、世界一の売上を追求する合理的なチーム。どちらも経験する中で、「組織はこうやってつくられる」という実感を得ました。
当時はサロンを経営するなんて考えてもいませんでしたが、異なる個性が集まりチームになる過程や、楽しませながら行う教育、上下関係にとらわれないリスペクトの文化は、今の自分にも確実につながっています。