「難しいけど、難しく考えすぎないで」。LGBTQ+当事者がNYで感じた多様性の自由と、日本の美容室の課題―美容師・細野まさみさん|美容室とセクシュアル・マイノリティvol.2

 

近年、ニュースなどで「LGBT」という言葉を聞く機会が増えてきました。レズビアン(Lesbian・女性同性愛者)、ゲイ(Gay・男性同性愛者)、バイセクシュアル(Bisexual・両性愛者)、トランスジェンダー(Transgender・生まれたときの性別と自分の認識する性別が異なる者)という4つのセクシュアル・マイノリティの頭文字をとった言葉です。

 

※最近では「LGBT」という表現は使わず、「LGBTQ+」という表記が使われることが多い。「LGBTQ+」の「Q」は、「クィア(Queer・自分の性自認や性的指向を定めていない者)」の頭文字。

 

社会的にムードが変わりつつある中、  “美容業界”ではどのような体制を取っていくべきなのでしょうか。そこで今回は2回に分け、「組織」や「雇用」をテーマに、当事者へインタビュー。美容室スタッフとオーナーが今後どう向き合っていくべきなのかを探ります。

 

Vol.1では、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権(まつなかごん)さんに美容業界の課題と、美容室オーナーがとるべき姿勢について伺いました。

 

Vol.2となる今回は、自身もゲイであり、ニューヨークでジェンダーニュートラルサロン『VACANCY PROJECT』のクリエイティブディレクターを務める細野まさみさんにインタビュー。自身の経験から、LGBTの人たちにとって居心地のいいサロンにするために意識していることや、これからの日本の美容室に求められることなどを語っていただきました。多様性を受け入れる街、ニューヨークの美容室と日本の美容室の違いとは?

 


 

カミングアウトはデメリットのほうが多いと感じていた

 

 

母がファッション関係で働いていたので、10代の後半ごろからファッションに興味を持ちはじめ、クリエイティブな仕事がしたいと考えるようになりました。

 

そのころに、はじめて原宿や青山で髪を切り、施術の前と後で自分がすごく変わったような感覚が印象に残っていて、美容室に通うのがすごく好きになったんです。あと、ファッションやおしゃれと同じように好きだったのが人と話すことでした。それで、接客とクリエイティブの両方ができる美容師になろうと決めたんです。

 

最初に働いたのは、日本の有名美容室です。当時はすでに自分のセクシュアリティについては認識していましたが、カミングアウトはしていませんでした。友だちに、カミングアウトしている海外のクリエイターはいたのですが、自分は絶対に無理だと思っていました。カミングアウトすることで、「この人ゲイなんだ」と変に意識されてしまう気がしていたんです。実際には全員が気にするわけではないと思うんですが、当時は若かったので、「ネタにされたら嫌だな」とか、「偏見があったらどうしよう」と考えはじめると、カミングアウトはデメリットのほうが多いように感じられました。

 

それは、日本のLGBTQ+の皆さんも感じているんじゃないかと思います。これは美容業界だから、というわけではありません。学校の校則など「みんな同じがいい」という日本の文化がカミングアウトをしづらい雰囲気にさせているような気がします。カミングアウトしてもプラスにならないですし、「みんなと違う」と思われて、変に意識されるのが嫌でした。

 

ニューヨークで暮らすことで、自分のセクシュアリティを受け入れた

 

 

最初の美容室では3年半ほど勤めました。退職したのはセクシュアリティとは関係なくて、純粋に海外に行ってみたいと思ったから。働いていた美容室にはアーティストのお客さまもたくさんきていて、彼らから聞く海外の話がすごく面白かったんです。

 

行き先はニューヨークとロンドンで迷って、最終的に勘でニューヨークに決めました。旅行で訪れたブルックリンの美容室がとても素敵で、そこで働くことに。ただ、最初はビザの期限が切れたら日本に帰ろうと思っていたんです。でも、ニューヨークで暮らしながらいろんな人と会ううちに、自分のセクシュアリティを改めて認識して、それもおかしなことじゃないと思うようになりました。

 

ニューヨークでは、本当にほとんどの人が、私がゲイであることなんて気にしないんです。セクシュアリティだけじゃなくて、いろんな人種がいるし、50歳で大学に行く人もいます。みんなが自由で、お互いを尊重している。この魅力的な街に残りたいと強く思うようになりました。

 

 

ところが、私が働いていたブルックリンの美容室には残念ながら偏見のある人が多かったんです。私がLGBTQ+の友だちと遊んでいるのを見て「あなたもゲイなの?」と、カミングアウトを強要され、カミングアウトした後には、扱いがまったく変わりました。日常的に笑いのネタにされるようにもなってきて、これは違うなと思い退職しました。

 

その後、ビザの期限があったので、ニューヨークに残るために、「どこでもいいから雇ってください!」という気持ちでニューヨーク中の美容室に履歴書を送りました。全部で約150件分の履歴書を一気に送り終えた2分後、ASSORTのCEOである小林から電話がかかってきたんです。小林は、「君のSNSを全部見たけど、ぜひうちで働いてください」と誘ってくれました。前回の美容室でのことがあったので、「私ゲイなんですけど、大丈夫ですか?」と伝えたところ、「僕はそういうのもクリエイティブの一環だと思ってるから」と言ってくれました。今度はカミングアウトして働きたいと思っていた私にとっては、すごくうれしい言葉でした。

 

そうして『ASSORT』ではじめてスタイリストとしてデビュー。『ASSORT』では、ゲイであることを理由に差別や偏見を受けたことはありません。

 

>LGBTQ+であることを「強み」として、ポジティブに発信していきたい

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