PEEK-A-BOO川島文夫 〜飢餓感の、地図。〜【GENERATION】後編  雑誌リクエストQJ2003年3月号より

自己満足の塊

 

 

確かに、好きなことはつづけられる。だけど美容には、そこまでの魅力があるのだろうか。

「ありますね。答えがないもん。やっても、やっても、やっても。美容師のみんなに自信をもってほしいのは、ひとつのことをずっとずーっとやるということは、怠慢だからじゃなくて勇気があるからだ、ということ。時代は必ず、また自分のほうに来るわけ。陽はまた昇る、という気持ち。だけど怖いから、陽の昇る方にみんな行こうとする。だから、みんな同じになっちゃう」

みんな同じ‥‥。

「全然おもしろくない。雑誌を見ても、みんな同じ。違うのはお店の名前だけ。もっと自分で自分に問いかけようよ。これでホントにいいのか、と」

うーん‥‥。

「バブルのようになってる。もちろんブームがあって、美容の仕事が再認識されたいう意味ではいいんですよ。だけどその半面、もうこれでいいんだよ、勉強しなくても、と。充分やっていけるんだよ。お店を出せばそこそこお客は来るんだよ、と。でも、もう一回声を大きく言いたいのはね、君たちは確かに成長してる。でも外国も成長してるんだよ、と。その事実をもう一度再認識しないと、日本の美容界はおもしろくなくなっちゃう」

ならば、どうすればいいのか。

「ナンバーワンじゃなくて、オンリーワンになれ、と。ナンバーワンなんて、すぐにナンバーツーになっちゃう。だけどオンリーワンになれば、それで初めてクリエイターになっていく。最初は見よう見まねでいいんです。できるようになります。ぼくみたいにね。そのうちに希望に応えられるようになります。お客さんの要望に。でも、みんなそこで終わる。次に必要なオリジナリティが出ない。希望に応える時点でみんな終わっちゃう」

でも、それが美容師ではないのか。お客さんの希望に応える。要望に応える。お客さんは喜んで帰る。

「うん。それはリアリティ。でもドリーマーじゃない」

ドリーマー‥‥。

「想像して、それをかたちにする。それが一番難しい」

難しいですよ、それは。全員が全員できるというものでは‥‥。

「じゃ逆に聞くけど、美容師ってなんだろう。人をきれいにすることを志す人とか。万人に愛される人、とか。そういう面も確かにあるんだけど、もっと違う面もあると思うんだよね」

「美容師は、自己満足の塊。自分のやりたいことをバーンとやって、それが人に共鳴してもらって、ハッピーになれるのが一番のハッピー」

でも、バーンと出すには賭けという部分があるでしょう。

「だって人生、すべてが賭けじゃないですか。この人と結婚して大丈夫かなぁ。賭けじゃないですか。で、最初から負けようと思って賭ける人、いないわけじゃないですか。でも結果はフタを開けてみないとわかんない」

 

 

人生を賭けた、長い旅

 

賭け、であった。川島文夫は19歳のとき、賭けに出た。いや、17歳で高校を中退し、美容学校に入ったときに、すでに賭けていた。その賭けに、彼は勝ったのである。

「いや、まだまだ。勝ってない。これから」

「今やりたいのは時代を超越した髪型をつくること。オリジナルで、独創性のある、シンプルな髪型。そう思いながらも、一方ではサロンで今、何が一番カッコイイ髪型か。それがやっと言えるようになってきましたよ。それはね、その人が一番ハッピーになれる髪型。それが最高の髪型だということ。その人らしくなるのが一番。だけど若い人にはまだ、その人らしさなんて言えるわけないじゃない。若い時はまず、テーマに沿って、ちゃんとできるようにならないとウソなの。なのにテーマと違うんじゃないと言うと、いや、私らしさが、と。それは逃げなんですよ」

逃げ‥‥。

「逃げてる。私らしさとか、その人らしさなんてのは、たくさん経験を積まないと見えてこない」

つまり、美容は長い道のりだ、と。20代は、まだまだだ、と。

「まだまだ。ぼくだって、まだまだ」

えっ? これからなんですか、川島さんのオリジナリティが出てくるのは。

「と、思いますよ。そこまで気持ちを持っていくと、50代でも短いんだもん。わかってくれますか。この熱い気持ち。そうすると50代でも、もっと時間が欲しいよね」

だとすれば、これから本当の楽しみが始まる、と。

「長生きしないとね。楽しみがなくなっちゃう」

 

 

川島文夫にインタビューした。この企画は約10年前から、温めつづけてきた。オファーも、出しつづけてきた。だが、なかなか受け入れてはもらえなかった。それが今回、あっさりと受け入れられたのは、なぜか。その理由を、彼は次のように語った。

「連続性なんですよね。何もないところから火も出ないし、煙も出ないのと同じように。自分を磨くことも大切だけども、ぼくと同じくらい強烈なパワーを持った、元気な人をつくりたいなぁ、と。カッコイイ言葉で人を育てるとかじゃなくて、共鳴してくれる人を探したい。世代を超えた人たちに、何かアピールできるような仕事も、そろそろしていかなきゃいけないかな、と」

 

伝わっただろうか。

書き手としては不安もある。彼が伝えたいこと。彼の生きざま。

私には伝わった。大きな夢を抱き、単身世界へと羽ばたいて、その存在を世界に知らしめた男が、いまでも自分を磨きつづけていること。小さな領分や政治にとらわれることなく、あくまでもニュートラルに、シンプルに美容の本質を見つめつづけていること。

 

川島文夫は、やはり“巨人”であった。しかも、現在進行形の“巨人”。つまりこれからも彼は、どこまでも“巨人”、なのである。

 

 

 

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