KANOW GROUP代表・桐山弘一のサロン運営3本柱とサロンブランディング。フリーランス経験を経てたどり着いた、若手が活躍する組織づくり
「コロナ禍での今だからこそ、準備できる」

――代表に就任してすぐ、コロナ禍という大きな転換期を迎えましたね。
ちょうど新物件が決まり、出店の準備を進めていたタイミングで新型コロナウイルスが広がりました。「本当にオープンできるのか」という不安は正直ありましたね。実際に店舗をオープンしたのは2020年5月。美容業界全体が先の見えない状況でした。
もちろん、経営者として迷いはありました。でも、物件との出会いは一期一会です。そこで立ち止まってしまうよりも、「このタイミングだからこそ準備できることがある」と考えました。実際、街には人が少なく、施工会社やデザイナーの方々ともじっくり打ち合わせができました。時間に追われることなく、「どんなサロンをつくりたいのか」「どんなブランドとして育てたいのか」を考える時間が持てたのは、結果的には大きかったですね。
オープン初月は、ちょうど行動制限が少し緩和されたタイミングでもあり、多くのお客さまにご来店いただきました。その後は感染状況によって波もありましたが、短期的な売上に一喜一憂するのではなく、「このブランドを5年、10年続けるには何が必要か」という視点で考えるようにしていました。経営は、目の前だけを見て判断するとブレてしまいます。長く続く組織をつくるためには、未来を見据えた意思決定が必要です。

同じ方向を向くチームをつくる。それがブランドを作るということ。
――店舗の内装も印象的です。ブランドづくりで意識していることはありますか。
今ある店舗は、内装づくりにも深く関わっています。デザイナーさんとコンセプトを共有しながら、照明や素材、入り口から席までの導線など、細部まで打ち合わせを重ねました。ヘアサロンは技術を提供する場所ですが、お客さまが過ごす空間や、スタッフの働きやすさもブランドを構成する大切な要素。だからこそ、店舗に足を踏み入れた瞬間から、そのサロンらしさを感じてもらえる空間づくりを意識しています。
最初に手掛けた表参道の「kyli(キリ)」は、自分の名前を由来にしたブランドです。オーナーから「自分の名前を背負うくらいの覚悟でブランドをつくったほうがいい」と背中を押され、責任を持って育てていこうと決意しました。物件も妥協せず探し続け、ようやく理想に近い場所と出会えたんです。
ブランドは、ロゴや店名だけで成り立つものではありません。空間や接客、デザインまで、一つひとつの体験が積み重なることで、お客さまの中に「このサロンらしさ」が生まれていく。その積み重ねこそが、長く愛されるブランドにつながると考えています。

――現在は正社員を中心とした組織へ変わっていますね。
もともとは社員とフリーランスが混在している組織でした。ただ、ブランドを意識していく中で、「全員が同じ方向を向ける組織」にしたいという思いが強くなっていったんです。
もちろん、フリーランスという働き方を否定するつもりはありません。実際に僕自身も経験していますし、その良さもよく分かっています。ただ、ブランドをつくるという視点で考えると、目指す方向性や価値観を共有できる組織のほうが強い。だから、中途採用を進めながら組織を整え、その後は新卒採用にも力を入れるようになりました。新卒から育てることで、ブランドの考え方や技術、接客まで一貫して伝えられると考えたからです。採用はゴールではなく、スタートです。入社してからどう育てるかまで考えて初めて、組織づくりになると思っています。

個人ブランディングは「サロンブランド」の上に成り立つ
――SNS全盛の時代だからこそ、個人ブランディングも重要ですよね。
もちろん個人の発信は大切です。でも、僕はサロンブランドが先にあるべきだと思っています。会社としてどんなお客さまに来ていただきたいのか、どんなデザインを強みにするのか。その軸があるからこそ、スタッフ一人ひとりも自分らしさを発揮できます。
たとえば会社がナチュラルテイストを打ち出しているのに、一人だけまったく違う方向へ発信してしまうと、お客さまも混乱してしまいますよね。だから、まずはサロンブランドで集客できる状態をつくる。その上で、それぞれが得意分野を伸ばしていけばいい。
若手がデビューしたときに、すぐ入客できる環境を整えることも経営者の仕事です。ブランドがしっかりしていれば、お客さまとの出会いも増えますし、成功体験も積みやすくなります。個人ブランディングは、その土台の上で育てていくものだと考えています。

――最後に、桐山さんが考える理想の組織について教えてください。
サロン経営には本当にいろいろな要素がありますが、大きく分けると「集客」「採用」「教育」の3つだと思っています。どれか一つだけが強くても、長く成長し続ける組織にはなりません。集客ができても人がいなければ出店できない。採用できても教育が整っていなければ定着しない。教育だけ頑張っても、お客さまがいなければスタッフは成長できません。だから、この3つをバランスよく育てることが経営の仕事だと思っています。
今、一番の課題は教育です。スタッフが一人前になるまでを、どう再現性高く仕組み化していくか。そこはまだまだ改善できる部分があります。僕自身がすべて教えるわけではありません。教育が得意なスタッフに任せ、役割を分担しながら組織をつくっています。経営者が何でも抱え込むより、それぞれの強みを生かしたほうが組織は成長すると考えているからです。
これからも目指しているのは、若い美容師が早い段階で活躍できる環境です。
個人がスターになることももちろん大切ですが、それ以上に「このサロンに入れば成長できる」と思ってもらえる組織をつくりたい。一人の美容師の成功で終わるのではなく、次の世代へと価値をつないでいくこと。それこそが、これからのサロン経営に求められる役割だと思っています。

- プロフィール
-
桐山弘一(きりやまひろかず)
KANOW GROUP グループ代表
福島県出身。仙台ヘアメイク美容専門学校卒業後、表参道のブランドサロンで約7年間、美容師としての基礎を学ぶ。その後、恵比寿の個人サロンで約5年間勤務し、新規集客で大きな成果を上げる。KANOW GROUPでフリーランス経験を積んだ後、2020年に表参道にkyliを立ち上げ、KANOW GROUP代表に就任。2022年、lyann 表参道を出店。ブランド設計から店舗開発、採用、教育まで幅広く統括。大型サロン、個人サロン、フリーランスと多様な働き方を経験した視点を生かし、「集客・採用・教育」を軸とした組織づくりに取り組んでいる。
Instagram:@kiriyannn
(文/石田雅子 撮影/宮崎洋)